契約違反の場合は訴訟費用の負担も

このように、技術流出が起きたあとでは、被害救済は難しいのが現状だ。そこで、企業としては技術流出が起こる前に、水際でこれを防ぐ自衛策が必要だろう。

最も効果が大きいと考えられるのは、社内情報の勝手な持ち出しを禁止する「秘密保持契約」を社員と結ぶこと。技術流出の発端となっている社員に、まず縛りをかけることが重要だ。新入社員とはもちろん、いまいる社員とも早急に契約する。拒否する現役社員はまずいないはず。

契約のポイントは、「持ち出してはならない情報」を明確に設定すること。技術情報はもちろん、顧客名簿、事業計画やマーケティングデータなども含める。また、ダウンロード、電子メールなど、想定されるあらゆる持ち出しの形態を禁じておく。

契約に違反した場合、損害賠償責任に加え、流出した情報の削除や返還の責任を負うことも明記する。情報がいったん流出すると、広範囲に伝わってしまい、回収困難になるケースも多いが、これを社員に回収させる内容も盛り込んでおく。また、社員に訴訟費用や調査費用も負担させたりする条項も入れておこう。

社内研修も行い、社員に対して社内情報の持ち出しが違法行為だと強く認識させる。退職時にも契約の再確認のため、一筆書かせると効果的だ。さらに、契約違反の責任は、法的手段に訴えてでも徹底的に追及する。こうした取り組みを続ければ、技術流出は大幅に減るだろう。

ただし、社員に“ムチ”をふるうだけでは、根本的な解決にはならない。終身雇用制が崩れ、企業に長年尽くしてきても、中高年はリストラで切り捨てられる。非情な仕打ちに対する憤懣が、情報の持ち出しという形で爆発しているのではないか。状況が変わらなければ、情報を持ち出そうとする確信犯は再び現れる。

欧米企業のように、社内情報の管理を徹底する一方で、業績に応じたインセンティブで報い、有能な人材をつなぎとめる。そうした仕組みづくりも必要だと思う。

(構成=野澤正毅 撮影=南雲一男)
【関連記事】
トヨタ「世界1000万台」阻む二重の中国リスク
消費税 -海外配信の音楽ダウンロードに課税できるのか?
レノボ、HP……PCメーカーの「Made in Japan回帰」はなぜか
サイバースパイ -目には見えない「不法上陸」
有能秘書が見抜く「信用できない人」