今年4月、改正労働基準法が施行された。その目玉は、労働者に支払われる残業代の割増率を一部引き上げた点である。
これまでは、会社側に25%増しの給料支払いが義務づけられてきた残業代。今後、大企業に対しては、月に60時間を超える残業について50%の割り増しが法律で義務づけられた。違反すれば、経営者に最高で懲役6カ月の刑が科される労働犯罪となる。
大和総研でコンサルティング業務を担当する社会保険労務士の廣川明子氏は、この改正について「ワーク・ライフ・バランスが取れた社会を実現するために、長時間労働を削減することを目的としたもの」と説明する。
30歳男性の約2割が、週60時間以上働いている統計があり、この数字はここ10年ほど変わっていない。これは、5人に1人が、平均して毎日4時間以上残業していることを意味する。今回の改正により、従業員を長時間働かせることは、会社にとってさらなる金銭的な負担の増加となる。結果、めでたく残業時間の減少となるだろうか。「根本的な解決にはならないだろう。企業は、『余分にお金を払うのだから残業させてかまわない』と思うかもしれないし、労働者も、『お金をたくさんもらえるなら残業しよう』という考えも当然出てくる」(廣川氏)
そもそも、なぜ残業はなくならないのだろうか。長時間の残業は、経営側にとっては人件費の上昇につながる。労働者側にとっても、健康への影響やプライベート時間の減少などデメリットは多い。それでもなくならない残業問題の根にあるのは、「働かせたい」使用者と「働きたい」労働者の利害が、妙に合致してしまっている現状だ。
「私は『アピール残業』と呼んでいるが、会社に遅くまで残っていることが、勤勉で優秀で格好いいとの風潮がまだまだ根強い。周りが残業していると、早く帰ろうにも帰りづらい空気になってしまう」(同)
遅くまで会社に残っていることは、仕事に真剣に取り組んでいることを上司にアピールする有効な手段でもある。近年進んだ成果主義の賃金制度が、アピールのための残業を増やしている可能性もある。
「人事評価の要素に『業務効率性』を加えて、定時で帰る従業員を高く評価することも必要だろう」(同)