社会生活を送るうえで、様々な申込書や契約書に印鑑を押す機会は少なくない。その際、どうしてこんな場所に印鑑を押さなければならないのかと思った経験はないだろうか。例えば「捨て印」と呼ばれるもの。当事者氏名に添えて押した印鑑を、その書面の隅などにも押印する場合を指す。

一般に捨て印で修正できるとされる範囲
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一般に捨て印で修正できるとされる範囲

企業法務などに詳しい、リーバマン法律事務所の石井邦尚弁護士は、「捨て印」の意味についてこう説明する。

「捨て印とは、その書面に関して、ある程度まで訂正して構わないという権限を与える趣旨で押す印鑑のこと。もっとも、その趣旨を知らずに捨て印を押す人もいるだろうが、もし争いが裁判所に持ちこまれれば、国内の取引慣習などを前提に、やはり書面の訂正を容認する意思が表示されていると解釈される可能性が高いだろう」

つまり、捨て印は、書面の内容に誤りがあって書き直すときに、訂正印として流用することができるのである。

削る個所には二重線を引き、追加する文字は付記する。その際、欄外に押された捨て印のそばに「一字削除」「二字追加」などと訂正状況を記すことにより、捨て印を押した本人が訂正に同意した体裁をとるのである。

少々の書き間違いが見つかったからといって、その都度契約の相手方に連絡を取り、訂正の確認をとる必要があるとすれば繁雑だ。その手間が省ける点で、捨て印は便利な慣習といえよう。

しかし、捨て印を押したために、相手が好き勝手に契約内容を改変できるとすればたまったものではない。訂正権限を譲り渡したと推定される印鑑を押すことは、まるで白紙の契約書を差し入れるのと同じぐらい危険な行為ではないだろうか。

「とはいえ、捨て印で、どんな訂正でも可能となるわけではない。一般的には、捨て印が押されているからといって、契約内容の重要な部分についてまで、変更する権限を与えているとは解釈されないであろう。裏を返せば、漢字などの明らかな書き間違いは、捨て印をもって修正できる」(石井弁護士)

ここでいう「契約内容の重要な部分」とは、契約によって発生した当事者の権利や義務と直接結びつく個所と考えられる。