酒の席で気が大きくなり、「大船に乗ったつもりで任せろ」と大見得を切ったものの、酔いが醒めれば叶わぬ約束。にもかかわらず、相手が約束の履行を迫ってきた──これはありがちな話だ。

原則として、口頭での約束でも契約は成立する。例外として、借金の保証人になる約束をした場合など、書面がなければ契約は成立しないものもある。

しかし、契約は契約書がないと効力を発しないというわけではない。契約書は「言った、言わない」の争いを避けるための証明手段として交わされるもの。実際には、この契約書の存在は重要で、口約束の履行を求めて裁判を起こしても敗訴することが多いのだが、口約束でもれっきとした契約と見なされる場合がある。

では、それはどういう場合か。ポイントは、それが酒の席であろうとなかろうと、約束した内容の密度と、それを証明できるかどうかにかかってくる。

つまり、約束の内容が、契約書に相当するような具体性を備え、双方がその内容について合意しているか、そしてそれらについて訴えを起こした側が証明できるかというところが争点になる。

録音・メールが有効な証明手段に

一般に契約書には様々なことが書かれているが、契約を成立させるうえで本当に重要な条項はわずか数項にすぎない。

売買であれば、取引する物と金額、引き渡し時期と支払い時期、業務委託であれば、業務内容と報酬額と委託期間といったところ。あとは双方を特定できる署名があれば契約書は有効に成立する。

口約束の場合も、これに準じた詳細な内容の合意があれば、契約は成立したと思ってよい。しかし、訴訟に持ち込まれたときに問題となるのは、それを証明できるかどうかだ。裁判における立証責任は、原則として請求する側にある。「取引先に契約を迫られた」という冒頭のケースで契約の成立を立証しなければならないのは請求を行う取引先のほうとなる。