優越的地位にある者が弟子に行ったスピリチュアル・アビューズ

現在、本件は千葉地方裁判所八日市場支部で審理中。9月3日の第1回公判で被告人は公訴事実を認めており、10月29日に予定されている第2回公判で結審の見込みだ。

この事件の特徴は、Aさんの信心が利用され、師僧という優越的地位にある者が弟子に対して性加害を行った「スピリチュアル・アビューズ(宗教を利用した虐待や搾取)」であることだ。

Aさんは今回の記者発表に際し、「自分がしっかりと被害と向き合い、声をあげることで、自分と同じような被害を受けている人の助けになりたい」とした上で、加害者Bに対しは、「大きな怒りを感じている。加害者にはしかるべき処罰が与えられるべきです」と語気を強めた。

被害者の尼僧Aさん(左)と弁護士
撮影=鵜飼秀徳
被害者の尼僧Aさん(左)と弁護士

Aさんは、同じように性暴力被害を受けている人へのメッセージも発信した。

「今回の公表は、加害者に社会的制裁を与えたいとか、そういった思いから踏み切ったわけではありません。踏み切るまでにはいろんな思いや葛藤がありました。身内や宗門からの反対もあり、声に出すことは悪なのかと悩みました。ですが、これらを公表することで性暴力や性犯罪について一人でも多くの方に関心を持っていただくことと、今まさにとても苦しい思いをしている人たちがたくさんいると思いますが、その誰か一人にでもこの声が届いて、ほんの少しでも気付きや力になれればという思いで、公表に踏み切りました。弱い立場の人が躊躇なく声をあげることができ、力のある人はその力を弱い立場の人を守るために使えるような、そんな世の中になっていくことを願っています」

本門佛立宗務本庁(京都市)は取材に対し、このように答えた。

「昨年末に被害者本人から問い合わせがあり、ヒアリングをしました。本人(住職B)への聞き取りを実施しようと思っていた際に、逮捕されてしまったために、いまだに調査ができていません。なお、起訴された段階で住職は退任しています。本宗では一般的には、懲戒対象の事案が生じた際には審判調停委員会を立ち上げ、加害者本人からの聴取を経て、具体的な処分という流れになります。最も重い処分は僧籍剥奪です」

また、Bが住職を務めていた千葉県内の寺院に問い合わせると、男性が応対した。「弁護士に一任している」とだけ述べるにとどまった。

仏教界の性加害は本件に始まったことではない。今年には天台宗の高僧らによる尼僧への性加害問題が発覚している。四国に自坊を持つ住職Cが、尼僧の叡敦さんを14年間にわたり監禁し、性暴行や恫喝を繰り返していたとされる。Cの師である大阿闍梨Dも、この行為を黙認していたとされる。天台宗務庁では現在、調査を実施している。

仏教界における性虐待は、水面下ではまだあると考えてよいだろう。今後、「Me Too運動」が広がりを見せていくこともあるうる。宗教界の自浄作用が早急に求められる。

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