子どもの学力を伸ばすにはどうすればいいか。慶應大学総合政策学部の中室牧子教授は「ほめて自尊心を高めるといいという主張があるが、科学的には証明されていない。それどころか、大人の自尊心を高めるような介入は、もともと学力の低い学生にとっては大きな負の効果をもたらすという研究結果がある」という――。

※本稿は、中室牧子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。

母と娘の手
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自尊心の高い生徒は学習意欲も高い

「子どもはほめて育てるべきなのか」

私が友人からよく受ける相談です。友人によると「ほめ育て」というのは子どもたちの自尊心を高めるような育児法で、多くの人に支持されているそうです。

ためしにほめ育てを推奨している育児書を読んでみると、たしかに「子どもをほめて育てると、自分に自信を持ち、さまざまなことにチャレンジできる子どもに育つ」という趣旨のことが書いてありました。

自分に自信を持つ、言い換えれば自尊心を高めること――これはとても大切なことように思えます。心理学の研究では、自尊心が高い生徒は、教員との関係が良好で、学習意欲が高く、実力に見合った進路を選択している傾向があることが指摘されています。

直感的にも、子どもの自尊心が低いと、教員との関係がうまく築けなかったり、学習に対して意欲がわかなかったり、自分の実力を過小評価して進路を選択してしまう、というのはどれも正しいように思えますので、「ほめ育て」が一定の支持を集めているのもうなずけます。

日本人は「自分はダメ」と思いがち

そんな中、日本人は、他の国の人々と比べると自尊心が低いことが指摘されています。図表1は、日本青少年研究所が日本、米国、中国、韓国の中高生を対象に行った調査で「自分はダメな人間だと思う」と答えた人の割合です。日本の中高生は他国の生徒たちと比して自分の能力に対する自信に欠けていることがわかります。

【図表1】「自分はダメな人間だ」と思う日本の中高生
「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)より