家計のなかで教育費は大きな比重を占める。慶應大学総合政策学部の中室牧子教授は「子どもが小さい間にお金を貯め、高校や大学進学時に使おうとする家庭が多いが、教育経済学では、小学校に入学する前の就学前教育に投資をしたほうがおトクだと考えられている」という――。

※本稿は、中室牧子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。

絵を描くことに夢中になっている子供
写真=iStock.com/maruco
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子どもに大金を「投資」する理由

文部科学省の調査によると、家計が大学卒業までに負担する平均的な教育費は、幼稚園から大学まですべて国公立の場合でも約1000万円、すべて私立の場合では約2300万円に上ります。日本政策金融公庫の調査では、子どもがいる家庭は、なんと年収の約40%をも教育費に使っているそうです。

なぜ、これほどまでに親は子どもの教育にたくさんのお金をかけるのでしょうか。もちろん、子どもにたくさんのことを学んでほしいというお気持ちもあるでしょうが、教育を受ければ将来の収入が高くなるという期待もまた、あることと思われます。

経済学では、「将来子どもが高い収入を得るだろうと期待して、今子どもの教育に支出をする」のは「将来値上がりすると期待して株を買う」のと同じ行為だと考えます。もう少し経済学的に表現すれば、教育から得られる「便益」から教育に支払う「費用」を引いた「純便益」が最大化するように、家計は教育投資の水準を決定しています。

これが、1992年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のベッカー教授が提唱した「人的資本論」という考え方です。詳細はここでは述べませんが、この理論の根幹をなしているのは、教育を経済活動としてとらえると、将来に向けた「投資」として解釈できるという考え方です。

子どもの将来の収入=収益と考える

一般に「投資」というと、株や債券などを思い浮かべる人が多いでしょう。株や債券に投資をするときに、人々は「収益率」というものを気にします。もし、教育も投資ならば、その「収益率」を考慮するのは自然な行為です。

経済学では、「1年追加的に教育を受けたことによって、子どもの将来の収入がどれくらい高くなるか」を「教育の収益率」として数字で表します。

子どもへの教育を「投資」と表現することに抵抗のある人もいるかもしれませんが、あくまで教育を経済的な側面からみれば、そう解釈できるということにすぎません。