子どもの教育にお金をかけるならいつ?

子どもの将来の収入は、自立した生活を送るためには大変重要ですから、「どういう教育がわが子にとっていい教育なのか」を考えるときに、収益率を考える現実感覚を持っておくことは決して損にはならないはずです。

もちろん、子どもに教育を受けさせる理由は、金銭的な動機だけではないと考える人もいるでしょう。その場合は、人的資本論における「収益」の中に、「教育を受ける喜び」などの非金銭的なものも含めて考えればよいのです。これは金銭的な収益ほど簡単ではないものの、さまざまな仮定を置いて数値化する方法が提案されています。

前置きが長くなりました。ここからは、「子どもの教育に時間やお金をかけるとしたらいつがいいのか」という疑問に答えるために経済学者が推計した、各教育段階における人的資本の収益率の違い、つまり小学校、中学校、高校、大学、大学院それぞれの収益率がどのくらい違うのかということをご紹介しましょう。

もっとも収益率が高いのは就学前教育

これまでの研究が明らかにしているところによると、人々は「教育段階が高くなればなるほど教育の収益率は高くなる」と信じているようです。つまり、子どもの成功のためには、小学校よりも中学校、中学校よりも高校、高校よりも大学や大学院と、学齢が上がるほどかけるお金や時間を増やすべきだと。

たしかに、大学や就職先選びなど大事な選択の直前をどう過ごすかが、その人の人生により大きな影響を与えるのではないかと考えるのは理にかなっています。このため人々は、子どもが小さいときはお金を貯めておき、そのお金を子どもが高校や大学に行くときに使おうとするのです。

しかし、教育経済学はこの思い込みを真っ向から否定します。教育経済学の研究蓄積にはまだまだ議論が収束しないテーマも多いのですが、どの教育段階の収益率がもっとも高いのか、と聞かれれば、ほとんどの経済学者が一致した見解を述べるでしょう。

もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です。