40歳時点の所得、逮捕率に明らかな差

19歳、27歳、40歳のときに行われた追跡調査の結果をみると、灰色の棒グラフで示された処置群の子どもたちは、黒色の棒グラフで示された対照群の子どもたちに比べて、

・6歳時点でのIQ → 高い
・19歳時点での高校卒業率 → 高い
・27歳時点での持ち家率 → 高い
・40歳時点での所得 → 高い
・40歳時点での逮捕率 → 低い

ことがわかりました。

つまり、この就学前プログラムに参加した子どもたちは、小学校入学時点のIQが高かっただけではなく、その後の人生において、学歴が高く、雇用や経済的な環境が安定しており、反社会的な行為に及ぶ確率も低かったのです。

4歳の100円が65歳の6000~3万円に

就学前教育に長期にわたって持続するような効果があったということは、子どもへの教育投資を考えている親にとっても(そして子ども自身にとっても)素晴らしい発見ですが、この発見の持つ意味はそれにとどまりません。

中室牧子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)
中室牧子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー携書)

就学前教育への支出は、雇用や、生活保護の受給、逮捕率などにも影響を及ぼすことから、単に教育を受けた本人のみならず、社会全体にとってもよい影響をもたらすのです。

こうした社会全体への好影響を「社会収益率」として推計したヘックマン教授らによると、ペリー幼稚園プログラムの社会収益率は年率7~10%にも上ると指摘されています(他の研究では、さらに高い13%、あるいは17%という推計結果もあります)。

社会収益率が7~10%にも上るということは、4歳の時に投資した100円が、65歳の時に6000円から3万円ほどになって社会に還元されているということです。

現在、政府が失業保険の給付や犯罪の抑止に多額の支出を行っていることを考えると、幼児教育への財政支出は、社会全体でみても、非常に割のよい投資であるといえるのです。

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