51歳で最初の「限定正社員」に
非正規雇用で働く女性たちの待遇改善や、多様で柔軟な働き方の導入に尽力し、14年には勤務する会社で限定正社員*1の制度が導入されることになる。最初に限定正社員となった数人のうちの一人が中本さんで、51歳の時だった。通常の正社員と比べると賃金など処遇面は劣るものの、無期雇用となるため、福利厚生も正社員とほぼ同様に受けられ、非正規社員よりも立場が安定するというメリットがある。
「やりました! もちろんチームで成し遂げたことですが、正社員ではない、管理職でもない私の意見を取り入れてもらい、大きな達成感があります。一度仕事から離れ、地域や幼稚園などで、家庭の事情で働きたいけれど働けない女性たちの声を聞いた経験が生きているのかもしれませんね」
そう目を輝かせて限定正社員制度の導入決定を教えてくれたことを、昨日のことのように覚えている。
ちなみに、有期契約の労働者が同じ会社で通算5年を超えて働いた場合、無期労働契約に転換できる「無期転換ルール」が13年に施行された改正労働契約法で導入され、5年後の18年から効力が発生したが、限定正社員の制度はこの「無期転換」の受け皿ともなっている。
*1 一般的な正社員と異なり、勤務地や職務内容、労働時間などを限定した正社員を指す。柔軟な働き方のひとつとして導入されるようになった。
働く女性のネットワークを作り情報発信
人事部で8年間、限定正社員制度の導入をはじめ、非正規で働く女性たちの処遇改善などに取り組んだ後、中本さんは2016年、53歳の時に自ら希望して再就職時から7年間所属した消費者相談窓口に異動となった。その直後、異動を希望した動機を語った。
「人事部で積ませてもらった経験を今度は、再就職時の不安ななかで働く意欲を芽生えさせてもらった部署に生かしたいと思ったんです。ご恩返し、なんていうとおこがましいですが……多様な雇用形態で働く女性の皆さんの声を人事部、さらには会社の偉いさんにも届ける橋渡しもできればと考えています」
さらに、しばらく前から新たな活動も始めているという。
「実は、まだ始めて数カ月ですが、働く女性たちのネットワークをSNSを介して築き始め、これから週末など仕事が休みの日に、体験談などを発表して意見交換するセミナーを開きたいと計画しているんです。今年度から女性活躍推進法が全面施行されたこともあり、すでに課長職に就いて育児との両立で悩む女性もいれば、独身で経済的な不安を抱えながら非正規で働く女性もいます。出世第一で上下関係を重視してきた男性と違って、女性は先輩・後輩や雇用形態の違いを超えて、共感でつながることができます。女性のライフスタイルについて考え、課題を解決するための手掛かりなどの情報を発信していければと考えているんです」