今夏、注目すべきドラマはどれか。ライターの吉田潮さんは「小池栄子が出演している『新宿野戦病院』、『地面師たち』がいい。両極端の役だが、彼女の良さが存分に出ている」という――。
第32回日本ジュエリーベストドレッサー賞を受賞した俳優の小池栄子さん
写真=時事通信フォト
第32回日本ジュエリーベストドレッサー賞を受賞した俳優の小池栄子さん(=2021年1月14日、東京都内)

2024年の夏は「小池栄子祭り」

でーれぇ・ぼっけぇ・もんげぇ・ぶち……岡山弁の副詞を多用して感情表現する一方、日本的発音の英語で指示を飛ばしながら豪快な救急治療を施す。その女は米国籍の元軍医、ヨウコ・ニシ・フリーマン。今夏放送中のドラマ「新宿野戦病院」(フジ)の主人公だ。

腕はいいが、縫合や処置は雑。というか、いろいろと雑。豪快かつ雑。物言いも態度も横柄だが、人としてはまっとうで、偏見をもたず差別もせず常にフラット。日本の医療の非合理性や矛盾に斬り込むスーパードクターと言いたいところだが、日本では無資格・無免許である。

もう1作品。土地や家屋の所有者になりすまして不動産を勝手に売り飛ばし、巨額をせしめる詐欺師集団の暗躍を描いた「地面師たち」(Netflix)。登場する地面師はチームで動く。

「地面師たち」
「地面師たち」(Netflixホームページより)

計画を指揮するリーダー・ハリソン山中(豊川悦司)、契約や取引の際に表に出る「交渉役」の辻本(綾野剛)、法律に詳しい元司法書士で「法律屋」の後藤(ピエール瀧)、身分証などを偽造する「ニンベン師」の長井(染谷将太)、詐欺に適した物件をリサーチする「情報屋」の竹下(北村一輝)。

地上波と配信で真逆の役柄

そして、なりすましに適した人物をキャスティングする「手配師」の麗子。常に人材を確保し、「社会常識はあるが目先の金に困っている老人」や「多額の借金を抱える、あるいは早急に大金が必要な薄幸そうな女」などを言葉巧みに誘って説得する。

適した人材を見つけるために時間をかけて調べあげたり、決まったキャストが完璧になりすますための教育も担う。人の経済状況を聞き出し、弱みを握り、金で釣って犯罪に加担させるという難易度の高い役割だ。聞く力や懐に入り込む力、詐欺師としての総合力が必要で、麗子という人物には相応の説得力が問われる。

このヨウコと麗子を演じるのが、女優・小池栄子。地上波では豪快で雑で裏表がない人格者、配信では裏稼業で暗躍する犯罪者。ひと夏に二度おいしい、小池栄子祭りである。この10年の女優としての躍進を振り返ってみる。