主役を食う怪演
「5人のジュンコ」(2015年、WOWOW)では後妻業風味の殺人犯を威風堂々&鉄面皮に演じた。麻生祐未と杉田かおるがおぞましい怪演っぷりで、小池が演じた佐竹純子は俯瞰の立場だったが、胡乱で邪悪な女を温度低めで魅せた。
ここ数年で秀逸だったのは「家族観に囚われる女」の役かな。沢尻エリカ主演「母になる」(2017年、日テレ)では歪んだ母性が生まれた背景と哀しき女の行方を体現。男に何度も裏切られて失意の中、誘拐された子供を助けたが、誰にも知らせずに7年間育ててしまう女の役。ドラマ中盤から登場、主役を食う怪演だった。
厄介な弟に振り回されつつ振り回しもする“姉の苦悩”という共通項があるのは、「俺の話は長い」(2019年、日テレ)と大河「鎌倉殿の13人」(2022年、NHK)だ。「姉ちゃん!」と思わずつっこみたくなるような茶目っ気と図々しさは言わずもがなの名演だったよね。
「世の中で一番自分を信じている女」役は最強
いけすかないインテリ役も非道に躊躇のないサイコパス役もいいけれど、やはり地に足のついたその辺のおばちゃん感がほしい。空気を読まず、権力や権威になびかず(金にはなびくが)、世の中で自分を一番信じている女。そう考えると、個人的にドンピシャだったのは舞台と映画の両方で小池がキヌ子役を演じた「グッドバイ」だ。
太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」をケラリーノ・サンドロヴィッチが再構築した舞台劇で、映画版は大泉洋が主演。
大勢の愛人たちに別れを告げるために、絶世の美女を妻になりすませて、穏便に縁を切ろうと画策する文芸誌編集長。なりすます絶世の美女として白羽の矢を当てたのは闇商売の女・キヌ子。すこぶる美人なのにダミ声で訛りもあり、著しく品性に欠けた銭ゲバのキヌ子を、小池はのびのびと演じていたからだ。
小池がのびのびと気持ちよく演じているのは、冒頭の「新宿野戦病院」のヨウコも同じ。
セレブ気取りの叔父(生瀬勝久)に蔑まれても、「バカはおめえじゃ。ビッチはハッテンカのねえちゃんゆう意味じゃけぇ。ビッチにねえちゃんは含まれるけぇ。ビッチのねえちゃんはポルシェの車みたいなもんじゃ!」と返したヨウコ。
そうそう、その勢いが欲しかったんだよなと思った。耐える強さや飲み込む強さではなく、ぶち壊す強さや変える強さ。宮藤官九郎作品の中でも賛否が分かれるドラマだが、小池栄子が開放感が心地よいことは書き残しておきたい。