米国のドナルド・トランプ大統領が発表した「相互関税」の導入をめぐり、世界的な混乱が生じている。早稲田大学公共政策研究所の渡瀬裕哉さんは「トランプ政権の関税政策や移民対策によって、米国では専門技能職やエッセンシャルワーカーの需要が高まっている。こうした雇用状況の変化は、日本にも波及しつつある」という――。
2025年4月2日、ホワイトハウスのローズガーデンで行われた「アメリカを再び豊かにする」イベントで、政権の関税計画に関する大統領令に署名するトランプ大統領
2025年4月2日、米ホワイトハウスで「相互関税」の詳細を発表するトランプ大統領(写真=ホワイトハウス/大統領府のファイル/Wikimedia Commons

米国では「高学歴志向」が見直されつつある

かつて筆者がワシントンD.C.近郊に居宅を構えていた時代、街中で非常に多くの配管工トラックが走っていた。冬になると水道管が凍結してヒビが入りやすくなり、筆者もちょっとした油断で水道管を破裂させ、配管工屋さんに自宅の修理を頼んだ経験がある。配管屋さんは現場状況を診断し、すぐに適切な処置をしてくれて非常に助かった。

米国の学歴競争は激しさを増し、高レベルの学歴コミュニティに加わることは成功への切符であると考えられてきた。そして、ホワイトカラーから専門技能職等への蔑視も徐々に深刻なものとなってきていた。

しかし、当たり前であるが、人間が生きていくためのサービスや商品は、デスクワークのホワイトカラー労働者のみで提供できるものではない。実際には、熟練した技能を持って現場で仕事をする人や汗を流して働く人材が必要だ。

米国ではかつてはMBAなどの高学歴なエグゼクティブが憧れの的であったが、近年の高等教育の学費の著しい高騰もあり、Z世代の高学歴志向はやや見直されつつあるようだ。法外な学費を支払い、人生の船出に際して莫大な借金を背負うことに本当に意味があるのか、というのは妥当な問いであろう。

実際、米国労働統計によると、2024年に仕事を失った米国人労働者の4人に1人がコンサルティング、法務、会計、広告、ITサービスなど「専門的およびビジネスサービス」に属していた。これはホワイトカラーの労働市場が高金利とAIによる代替で厳しさが増しており、米国の労働市場が構造変化に静かに直面しつつあることを示唆している。