東京都知事選では、小池百合子氏、蓮舫氏、石丸伸二氏の3候補に報道が集中した。メディアコンサルタントの境治さんは「テレビの選挙報道は有力候補を決めたら他の候補は扱わず、投票用紙の書き方さえ間違って伝える。そもそもテレビを見ない若者にとって、選挙で『信頼できるメディア』はYouTubeになっている」という――。
テレビがついているが、手元のスマホにはYouTubeが起動中
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投票日当日に「誤情報」を放送

7月7日投開票の東京都知事選は、個々の候補者がさまざまな話題を振りまいたが、メディアの捉え方を一変させるイベントでもあったと思う。

とくにテレビの選挙報道について疑問を強く抱いた。選挙について、国民のためになる報道ができていたか。

もっとも衝撃を受けたのは、投票日当日のTBS「アッコにおまかせ!」での投票の注意だった。宇内梨沙アナウンサーが「正しく立候補した名前で書いてください。ひらがなで立候補している人はひらがなで、漢字で立候補している人は漢字で書くようにしてください」と言ったのだ。たまたま番組をぼーっと見ていた私は、麦茶を吹き出しそうになるほど驚いた。

候補者の名前はひらがなで書いてもいいし、字を間違えても無効にはならない。どの候補への投票かがわかればいいのであって、「正しく立候補した名前」である必要はない。「蓮舫」と書けないといけないなら、彼女の得票数は激減しただろう。

テレビの「劣化」を象徴するミス

そんな、選挙の「常識中の常識」を、質問した勝俣州和にTBSの宇内アナが完全に誤って教えたのだ。和田アキコを中心に巷の話題を楽しくおしゃべりする番組だが、このコーナーは選挙当日に視聴者にあらためて注意喚起することを意図されたものだろう。つまり、視聴者にレクチャーする真面目な時間だった。そこで大間違い、しかも誰でも知っていることを誤って教えるとは。

さすがに番組内で宇内アナが訂正し、謝罪した。だがこの誤りは大きいと思う。投票日にわざわざ、視聴者に正しい投票を呼びかけるコーナーだった。TBSのディレクターやプロデューサーがチェックしたはずで、宇内アナに謝らせるのは筋違いだ。番組として、局としての大失態ではないか。テレビというメディアの「劣化」を象徴するミスだと言っていいと思う。

今回の選挙では、選挙期間中のテレビ報道が物足りなかったことも取り沙汰された。それを象徴するのが、まったく無名ながら約15万5000票を獲得し、5位に食い込んだ安野貴博氏についてテレビが伝えなかったことだ。なぜか選挙後に安野氏はあちこちの番組に呼ばれ、本人が自虐的に「報道0秒」と言っていた。

私も今回の選挙報道は圧倒的な物足りなさを感じた。少し前まで、東京都知事選挙といえば半ばお祭りのようにテレビが報道していた印象がある。