「うちの党の放送時間が短い」とクレーム

この10年ほどの間に、政党からの選挙報道へのクレームが強くなったとの噂がある。元々選挙報道で各政党をどれだけ伝えたか、秒単位で測って自党が少ないと政党がクレームをつけることはあった。そのためNHKでは秒を超えてフレーム単位で計測して揃えていたとの話も聞く。

そして、2014年に自民党が各テレビ局に選挙期間中の報道の公正中立を求める文書を出したことが明るみになった。それ以降、テレビ局は萎縮し選挙報道を控えるようになったと言う人もいる。

エム・データという、放送された番組をテキストデータ化し提供している会社がある。同社に、この10年ほどの東京都知事選について、テレビ局が報道した時間をデータ化してもらった。選挙期間中、つまり選挙の公示日から投票日までの15日間、NHKと民放が合計何時間、都知事選を報道したかを選挙ごとに集計したものだ。

【図表】都知事選を巡る報道時間の推移(2012年~2024年)
筆者提供

自民党から文書が各局に届いたという2014年以降、テレビ報道は徐々に萎縮していったと想像していた私は、データを見て愕然とした。2016年だけが突出して多いし、今回の選挙は前回よりむしろ多くの時間を使って報道されていた。自民党の文書はあまり関係ないのだろうか。

2016年の選挙報道が圧倒的に多い理由

2016年の都知事選が多く報道されたのは、要するに盛り上がったからだ。2014年に都知事に選ばれた舛添要一氏が数々のスキャンダルを暴かれて辞任し、小池百合子氏が自民党を離れて立候補。小池氏を推薦しない自民党都議会のドン、内田茂氏は元総務相増田寛也氏を候補にする。

一方、野党側からは当初宇都宮健児氏が立ったが、野党4党統一候補としてジャーナリスト鳥越俊太郎氏が擁立される。野党系をまとめるために宇都宮氏が身を引いた。選挙戦は自民と対立する小池氏、自民が推す増田氏、野党系が立てた鳥越氏の3者が「有力候補」として扱われた。

鳥越氏はなぜか安倍政権批判や脱原発など国政レベルの争点を持ち出して上滑りし、内田氏をうまく悪者にしてSNSを上手に駆使した小池氏が圧勝した。街頭演説をSNSで配信し、女性たちが「変えられる」と緑を手にして集まった光景をまざまざと思い出す。