なぜマンガや小説のドラマ化でトラブルが起きてしまうのか。メディアコンサルタントの境治さんは「日本のメディア業界では契約書を軽視してきた。さらに、企画を練る準備期間が短いため、現場で揉めることもある」という――。
画像=ドラマ「セクシー田中さん」公式サイトより
画像=ドラマ「セクシー田中さん」公式サイトより

これ以上「被害者」を生んではいけない

日本テレビの連続ドラマ「セクシー田中さん」(2023年10月期放送)の原作者が急死した問題をめぐり、5月31日に、日本テレビが「『セクシー田中さん』 調査報告書」を公表した。週が明けて6月3日には小学館も「調査報告書」を発表した。

すでにさまざまなニュースになり、またX上でも話題になっているが、現在のドラマ制作現場の問題点を自ら告白する非常に興味深い内容だ。

最初に書いておくと、報告書の登場人物を挙げてこいつが悪い、あいつのせいだというような犯人探しは絶対にやめるべきだ。このドラマのトラブルについてSNSが騒然となった結果、何が起こったかを思い出してほしい。ここでまた誰かを個人攻撃をしては、私たちは何も学べなかったことになる。みなさん、そういう投稿は慎もう。

原作者の「条件」は共有されていなかった

さて、2つの報告書にはいたく感心した。ドラマや映画の制作上のトラブルについて、これほど詳細に調べ上げた文書は初めて読んだ。こういう話は公式に公開されることはないものだった。当事者である日本テレビ、小学館それぞれがここまで赤裸々に文書にしたことはまず評価したい。

私は、ドラマ「セクシー田中さん」をたまたま見始めたらハマった熱烈なファンだ。あれほど素晴らしい作品制作の裏で、ここまで壮絶なやりとりがあったことにあらためて驚いた。

そして2社が同時に公表した文書により、今回のトラブルの原因が明確になったと私は受け止めた。この件に関心があった人なら、原作者が2024年1月24日に公開したブログに、「必ず漫画に忠実に」「原作で未完の部分は原作者があらすじからセリフまで用意する」ことを条件にドラマ化を許諾したと書かれていたのはご存じだろう。

だが、この条件が共有されないままドラマ制作が進んでいたのだ。