放送開始まで余裕がないドラマ制作現場
企画に時間をかけないことこそが、日本のドラマ制作の大問題だ。タレントありきですべてが決まってきたからだと思う。企画は後回しで出演者が先に決まる。そんなことを何十年もやってきたので、半年前の企画決定が常態化してきた。
日テレ報告書によると、今回の「セクシー田中さん」も、放送枠が正式決定したのは約4カ月半前だったとある。
10月期日曜ドラマとして初回放送日や話数等の正式決定 日本テレビ内部で、本件ドラマが「10月期日曜ドラマ枠」ということで初回放送日と放送話数が正式決定し、2023年6月8日、A氏はC氏に「日テレ内で『10月ドラマ枠』で正式決定いたしました。」とメールした。A氏の認識では、ドラマ化自体と放送枠は決まっていたが、初回放送日がこのタイミングで決まった。
日本テレビの「調査報告書」P17より
ハリウッドでは、ドラマの企画は脚本家が立ち上げ、スタジオにプレゼンしてうまくいけば第1話の脚本が発注される。それも評価されればパイロット版が制作される。映画も完成された脚本が、億単位の金額で映画化権を買われたりする。その脚本をさらに改良するために別の脚本家が雇われることもある。
脚本にはお金をかけ、いい脚本ができたら企画にGOを出す業界文化がある。準備段階にお金も時間もかけるのだ。それができるのは、製作費が日本とは桁違いであり、巨額な費用を回収できるグローバルな市場が形成できているからだ。
制作準備のプロセスを大きく見直すべき
日本のエンタメは、国内市場がほどほどの大きさだったから海外展開に本腰を入れなかったとよく言われる。そのため市場が大きくならず、ハリウッドのように脚本制作に時間もお金もかけられないままここまで来た。制作準備期間が短いのも契約書をないがしろにするのも、その原因を突き詰めると市場の小ささに行き着く。
しかし最近は「国内市場だけではもたない」と、世界へ向かう空気が出てきた。だったら、制作準備のプロセスを大きく見直すべきだ。日テレ報告書にある通り、放送の1年半前に企画を決定すること、契約書締結を早期化すること。せっかく作った報告書にこうした提言があるのだから、日本テレビはそれをどうしたら具現化できるかに取り組んでほしい。
いま、配信サービス「TVer」で人気だからとドラマ制作の本数がどんどん増えている。粗製濫造に陥りかけていないだろうか。そして個々の現場で小さなトラブルが起こり、原作者や脚本家に限らず疲弊する人たちが生まれていないか心配だ。
業界全体でこの2つの報告書を読み込んで、仲間たちと議論し、業界の明日に繋げてほしい。間違っても「机上の空論」と切り捨ててはいけない。そんな姿勢では、日本のコンテンツは世界市場へ羽ばたけないだろう。