契約書を軽視してきたメディア業界

実際、それぞれの報告書では後半に書かれた「提言」の中で「契約書の早期締結」(日本テレビ報告書)、「契約の見える化」(小学館報告書)という項目がある。

メディア業界は契約書を軽視してきた。私は2000年代まで広告制作に従事してきたが、関わった仕事で制作会社が広告代理店と制作契約書を結ぶのを見たことがなかった。その割に制作費や修正費用について揉めることが多々あり、揉めたら制作会社が負担をかぶるのが普通だった。いまは変わったかもしれないが。

さすがに映画制作では契約書が交わされるが、それも撮影が始まってようやく、というケースがよくあった。メディア業界には「契約書のような面倒はやめとこうぜ」という不思議な気風が漂っていた。

「セクシー田中さん」の原作利用許諾契約も、なんと放送までに締結されていなかったと日テレ報告書にある。文書で契約を交わそうと早い段階で進めていれば、何が原作者の許諾条件かもはっきり示され、関係者に共有できたのではないか。

なお、同年6月15日以降、日本テレビと小学館が本件ドラマ化についての契約書締結交渉を始める。同年6月15日にA氏が小学館にドラフト作成を依頼。同年7月28日に小学館から契約書ドラフトが日本テレビに届き、契約書内容が過去作品から大幅な変更があり、検討に時間を要したため、日本テレビの回答は同年9月27日であった。結果的に、放送前には締結に至らなかった。

日本テレビの「調査報告書」P20より

「ふんわりした合意」では揉めるだけ

契約書でなくても、メディア業界は打合せの場に文書を持ち寄ることが少ない。打合せの後に議事録を作成する習慣もない。だから「ふんわりした合意」になりがちなのだ。

日テレ報告書の提案にある「相談書」でもいいと思う。原作側は「こう作ってほしい。これを絶対守ってください」とはっきり伝える。制作側は「われわれはこう作りたい。だからこうさせてほしい」と文書で明示する。

机の上に契約書
写真=iStock.com/years
※写真はイメージです

面倒でもはっきり伝えるほうが後で揉めるよりずっといい。その上で互いに合意した条件を契約書に盛り込めばいい。

日本テレビ報告書の「提言」にはもう一つ、私がかねがね絶対大事だと思っていたことが出てくる。それは「放送開始の1年半前の企画決定」だ。