TVerでの配信が好調なことから、各局でドラマの制作本数は増加傾向にある。ライターの吉田潮さんは「最近のテレビドラマには安易な設定のものや、登場人物の感情の揺れを極端に省いたものが散見される。力のある俳優たちが配信系のドラマに流れる傾向は今後も続くだろう」という――。
「これぞ良質なドラマ」と感心したネトフリ作品
怒りの表現として、モノを投げる人がいる。決して褒められる行為ではないが、人様に向けて投げるのではなく、やり場のない怒りをこめて、ぶん投げるだけ。その勢いや衝撃でモノが壊れたり、周囲が汚れたりもするが、理性で止められないほどの瞬間的な強い怒りが伝わる。普段から温厚で穏やかな人や、感情を人前で出さない奥ゆかしい人が、怒りを露わにする表現として非常に有効である。
何の話かって、向田邦子脚本を是枝裕和監督が令和の時代に色鮮やかに蘇らせた「阿修羅のごとく」(Netflix)だ。この「投げる」の変格活用を用いていて、奥が深いなと思ったから。オープニングも実に象徴的である。宮沢りえ・尾野真千子・蒼井優・広瀬すずの4姉妹が「投げる」(すずだけは“殴る”)姿がスローモーションで映し出される。
劇中でも、秘めた怒りや、露わにしたら逆に自分が惨めになるような怒りを「投げる」ことで表現。向田脚本では投げていたが、是枝作品では投げないことで怒りの本質と矛先を再確認させ、人物の特性を引き出してもいた。
セリフで説明できるような怒りではないからこその「投げる」。女優たちが内なる感情を丁寧にじっくり演じることができる作品は、人物や背景に奥行きと余韻が生まれるんだよなぁと改めて噛みしめた。
で、ここからが本題。最近のテレビドラマはどうか、という話。ここ数年ずっと感じていることがあるので、4つの特徴をまとめてみようと思う。キーワードは「時短」。何事にも時短と効率を求めるせっかちな人を取り込む魂胆なのかなと。