なぜアニサキスの食中毒が増えたのか

――私は食担当の記者(毎日新聞社)として、長年、食中毒の記事をよく書いていました。しかし記事のほとんどは、生肉や生卵などが原因の病原性大腸菌やサルモネラ属菌、そして鶏肉のカンピロバクターなどの細菌を原因とした食中毒でした。

食中毒統計で寄生虫のアニサキスによる食中毒事件数がいつのまにかトップになっていたのは本当に意外でした。

図表3の食中毒事件数の推移を見ていて気付いたのですが、アニサキスの報告件数は2012年あたりから徐々に増えています。アニサキスは昔からいたはずです。2007年には6件しかなかったのに、なぜ、急に増えたのでしょうか。

それは法律が関係しています。2012年12月、食品衛生法施行規則の一部が改正され、アニサキスは食中毒の病因物質のひとつとして、食中毒患者等届出票に記入され、医師が届出するよう新たに方針が強化されたのです。なお食中毒統計にアニサキス食中毒が初めて収載されたのは1999年です。

つまり、患者を診た医師がアニサキス食中毒と診断した場合、届出票に「病名は急性胃腸炎で原因はアニサキス」と明記して、地域の保健所に届け出ることが必要と改めて確認されました。

確実に予防したいなら加熱して殺す

――食中毒と言えば、かつて焼き肉チェーン店で生の牛肉を食べて死亡者まで出した病原性大腸菌、鶏肉の刺身やたたきを食べて発症するカンピロバクターなどを重要視しがちですが、アニサキスは盲点だったような気がします。

病原性大腸菌にせよ、カンピロバクターにせよ、加熱すれば食中毒は防げます。アニサキスによる食中毒予防も同じなのでしょうか。

確実な予防法は加熱です。60度以上で1分間以上加熱すれば、アニサキスの幼虫は確実に死にます。

食べるときや調理のときに目で見て除去する方法もありますが、アニサキスは魚肉の深いところにも侵入していることがあり、目視で全てを取り除くことは困難です。

――冷凍はどうですか。

マイナス20度以下で24時間以上冷凍すれば、解凍後の魚を刺身で食べても大丈夫です。家庭用冷蔵庫の冷凍温度は通常マイナス18度に設定されているので、温度調整が可能なら、マイナス20度以下にする必要があります。あるいは48時間など、長時間、冷凍して下さい。

スーパーで刺身用に生の魚介類、特にすぐに食べられる商品を購入する場合、「解凍」と表示されたものを選ぶ人がいます。しかし、冷凍の条件がわからず、この選び方ではアニサキス症を予防することはできません。注意して下さい。