アナフィラキシーの原因を調べると「小麦より多い」というデータもある
――ということは、サバを食べてアレルギーを起こした人の中には、アニサキスが原因だったというケースもあるわけですね。
アナフィラキシー(アレルゲンの侵入で数分~数時間後、皮膚のかゆみやじんま疹、さらに呼吸困難、血圧低下など全身に生じる激しいアレルギー反応)のような症状も起きるので、やはりアニサキスは要注意ですね。
その通りです。胃アニサキス症患者の約3~4割にアレルギー反応としてじんま疹が出ます。さらにアレルギー反応が激しくなると、血圧低下や意識喪失などの症状を伴うアナフィラキシー(劇症型アニサキス症)が発生します。
帝京大学医学部附属病院(東京都板橋区)の救急医療チームが、2015年から2017年の3年間にアナフィラキシー症状で同病院救急科を受診した16歳以上の患者181例を調べたところ、食物を原因とする患者が78例で最も多かったのです。
驚くべきことに78例のうち28例(36%)の原因がアニサキスでした。ちなみに、次いで多かったのは小麦アレルギー(21例)でした。つまり、アニサキスはアナフィラキシー症状の救急搬送のうち、最多の15%を占めていました。
食中毒の約6割を占める「アニサキス」、感染源の1位はサバ
――信じられないほど高い数字ですね。となると、どんな魚にアニサキスが多いかがとても気になります。
いうまでもなく日本の近海にはさまざまな魚介類が生息していますが、これまでに160種類以上の魚介類からアニサキスの幼虫が検出されています。
食中毒統計(2022年)によると、感染源となる魚介類のうち、サバが49%と最も多く、次いでイワシ、ヒラメ、アジ、サンマの順です(図表2)。
アニサキスの幼虫は、小魚を食べて食物連鎖の上位に来る魚に多いことがわかりますね。ただ、常にサバに多いというわけではなく、季節や年によって変動が見られます。2018年にはカツオを原因とするアニサキス食中毒が目立ちました。
これは黒潮の流れが変わったことによる影響もあったようです。また9~10月に限れば、サバよりもサンマによる感染例が上回る年もあります。サバにだけ気をつけていればよいということにはなりません。
――日本は四季折々にさまざまな魚介類が流通するので、アニサキスによる食中毒はかなり多いと思います。毎年の発生件数はどれくらいでしょうか。
厚生労働省がまとめた食中毒統計を見ればわかるように、たとえば2022年には、アニサキスによる食中毒が年間に566件あって、食中毒全体の約6割を占めました(図表2)。
次いで多いのが、生の鶏肉が主な原因のカンピロバクターの182件(全体の約19%)、そしてノロウイルスの59件(同6%)の順です。アニサキスは、ノロウイルスと違い、ヒトからヒトへ感染することはありませんが、食中毒の件数はとても多く、侮れないことがわかりますね。