恵まれない環境に支配されていた子ども時代

わたしは子どものころから、ネガティブな状況がわたしたちの人生を制限してしまうということに気づいていた。わたしは貧しい家庭で育った。父親はアルコール依存症。そして母親は、慢性的にうつ状態で自殺願望をもっていた。このような環境で育つと、人生とは何かの罰か呪いである、あるいは、なんの理由も脈絡もなく不幸が襲ってくるカオスなのだと思い込むようになる。

空のガラスの瓶
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もしかしたらあなたも、運命の気まぐれに翻弄ほんろうされ、人生の意義が見いだせずにいるかもしれない。あるいは、なぜ自分や自分の愛する人たちは、何も悪いことをしていないのにこんなにひどい目にあうのかと嘆いているかもしれない。自分には何もできないと無力感を抱えているかもしれない。だが、そうやって苦しんでいると、あなたに見える可能性の範囲がますます狭くなっていく。

わたし自身、何年にもわたってまわりの環境に支配される人生を送っていた。そして、この状況をいい方向に変える力など自分にはないと思い込んでいた。トラウマを体験した人のほとんどは、当時のわたしと同じように感じてしまう。その体験の苦痛とショックに精神を支配され、それにあらがおうという気力もわいてこなくなるのだ。

この苦痛には巨大な力があり、わたしたち自身の遺伝子だけでなく、エピジェネティクスという分野の研究でも発見されたように、さらに下の世代の遺伝子にまで影響を与えていく(※1)

わたしたちの精神と肉体は、将来同じようなトラウマを経験するのを阻止するために協力して動いている。その過程で、わたしたちの意識は、自分が起こせる変化を思い描くのではなく、恐ろしくて予測不能な外の世界にただ反応するようになっていったのだ。

※1 エピジェネティクス Stanley Krippner and Deirdre Barrett (2019). “Transgenerational Trauma: The Role of Epigenetics,” The Journal of Mind and Behavior , 40(1), 53-62

「願望実現」でも現実はコントロールできない

わたしたちはそうやって、せっかくのエネルギー、注意力、集中力を失ってしまった。

それらを活用すれば人生に本物の変化を起こすことができるというのに、自分が力をもっていることにさえ気づいていない。その結果、自分の内なる力ではなく、なんでも解決してくれる魔法の存在を頼るようになる。これは本当にひどい話であり、誰が悪いわけでもない。

世界はたしかに残酷なほど不公平であり、そのせいでひとりの人間の夢が破壊されることもある。わたしもかつては、自分はこの不公平な世界の犠牲者だと思っていた。しかしいまでは、数え切れないほどの人々が、自分よりもさらに理不尽な境遇にあるということも理解している。

個人の事情で苦しんでいる人もいれば、システムのせいで苦しんでいる人もいるだろう。そういった人たちが暮らす社会では、個人の自己実現を阻むような障害がシステムに埋め込まれている。人種、社会階層、宗教、性的指向、ジェンダー表現など、不当な差別がまかり通っている。肉体や精神に深刻な病を抱え、日々苦しんでいる人もいるだろう。

マニフェステーションは、そういった苦しみをすべて解決できるわけではない。あらゆる人間の行動が、自分にはコントロールできないさまざまな要素によって制限を受けている。わたしたちの意図に関係なく、最終的な決定権をもつのは現実だ。

それはたしかにそうなのだが、ここでわたしが以前に聞いた感動的な話を紹介しよう。