稲盛和夫は「おい、神様に祈ったか?」と声をかけた
「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏(パナソニックグループ創業者)と稲盛和夫氏(京セラ・KDDI創業者)。経営史に名を残すビジネスパーソン達はいったい何を祈ったのでしょうか?
「おい、神様に祈ったか?」
稲盛和夫氏の著書『働き方』(三笠書房)に出てくる稲盛氏の声かけです。まだ創業10年も経たない京セラにIBMから大量受注があった時のことです。IBMの要求水準は当時の京セラの技術水準を大きく上回り、いくら試作品を納めても品質検査で「不良品」と判定され、返品され続けました。
そんなある晩、職場で呆然と立ち尽くし、万策尽きたといった風情で泣く技術者に対し、稲盛氏は思わず「おい、神様に祈ったか?」と声をかけたのです。
稲盛氏の真意は、「人事を尽くし、後はもう神に祈り、天命を待つしか方法はないと言えるほど、すべての力を出し切ったのか。自分の身体が空っぽになるくらい、製品に自分の『思い』を込め、誰にも負けない努力を重ねたのか」(同書より引用)ということでした。
「力の限り努力しますが、神様もお助けください」
その技術者は、稲盛氏の言葉で再び気持ちを奮い起こして開発に取り組み、IBMから「合格通知」を受ける製品を完成させました。
このエピソードから、稲盛氏にとって神仏への祈りは、前述のGRIT(グリット)、すなわち「やり抜く力」を付けるためと推測します。人事を尽くしきる力です。
のちに僧侶になるほど仏教に傾倒した稲盛氏ですが、神社参拝にもこだわりがあり、京セラ第2代社長である青山政次氏の著書『心の京セラ二十年』(非売品)よると、初詣は京都の車折神社、八坂神社、伏見稲荷大社に連続して参拝されたようです。
特に車折神社は、当時の稲盛氏の自宅近くにあり、創業して最初のお正月に「一番にお参りしたい」と、元旦午前0時前に稲盛夫妻と青山夫妻の4人が集まりました。そして時計が0時を指した瞬間、稲盛氏と青山氏は2人一緒に鈴を鳴らして拍手を打ち、京セラの発展を祈願したと伝えられています。
稲盛氏は何事も一番が好きで、初詣も一番にお参りして、「自分は力の限り努力しますが、神様もお助けください」と、神様の加護を願ったそうです。