納期が迫る中、目標が達成できそうにない。そんな部下の数字をぐっと伸ばすにはどうすればよいか。課長、部長、支社長……それぞれの階層で営業現場を取りしきる辣腕管理職たちが、数字につながる指導法を伝授する。

フォローしてくれる片腕を何人持てるか

住友生命保険 支配人 兼 福岡総支社長 兼 九州法人部長 
鮎川政仁 

1953年東京都生まれ。77年、東北大学卒業後、住友生命保険に入社。95年、商品部営業課長、98年、東京北営業本部第2営業部長に就任。2010年3月より現職。

「期限まであと3日となったら、支社長としてはもう追い込まない。気分を切り替えて次期の準備に取りかからせる」と語るのは、住友生命保険の鮎川政仁氏。

福岡総支社長として、支社を含め、1200~1300人の従業員を抱える立場だ。その多くを占める営業職員は、保険契約の目標数値を個人で設定している。

「ギリギリの達成を目指せば『お願い交渉』になり、必要な商品をお客様に提案するというあるべき姿から離れてしまう。だからこそ、部下には早め早めに声かけすべき。月半ばあたりで様子を見て、厳しければ早めに手を打たせることです」

活の入れ方は相手によって変える。きつく叱らないと動かない部下には声を荒らげることもあるが、逆に強く言うと潰れてしまうタイプなら、「こんな月もあるよ」と慰める。すでにある程度数字をあげている部下には、「すぐ翌月へ向かえ!」と指導する。

顧客も商品知識が豊かになり、簡単には判を押してくれないケースが増えた。

「世相が厳しいこともあって、今の若手は失敗体験が多い。身内からの契約でもかまわないから、小さな成功体験を積ませることが第一歩」と鮎川氏。「私の若い頃は飛び込み100回で獲得した」などと追い詰めても、離職率が上がるだけ、という結果になりかねない。

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鮎川支社長のマネジメント術「早めの声がけ&片腕フル活用」

長期間、組織単位で業績が低迷し続けていれば、リーダーを代えるなど、思い切った対処法も考える。「人事にまで踏み込むのは、グループ内に『別にこのままでいい』という共通認識ができてしまったとき。慰めあうだけの組織になると叱っても効果は薄く、他のグループにまで諦めムードが伝染する危険もある」。

こうした職場の空気に気づくためには、日頃から社内をよく観察しておくことが重要だ。オフィスの個室でじっとしているだけでは追いつかない。

「自分から外に出て様子を窺い、必要とあらば飲みに誘います。今の若い人は飲みに行きたがらないと言われますが、多くの人が心の内では上司に本音を言える機会を求めているように思います」

とはいえ、1000人を超える職員を預かる身としては、1人1人のケアが難しいのも事実。だからこそ、指導を代行してくれる中間管理職が必要だ。誰かをきつく叱った後に、さりげなくフォローを頼んだりすることがたびたびある。

「きめ細かい現場の情報を掴んでもらって、現場の営業職をフォローしてもらうことで目標達成を目指す。そんな優秀な片腕を何人持てるかが、大きな組織の上に立つ管理職の成否を分けるでしょう」

数字達成の極意は、結局、日々のチーム力にあり。精神論で追い込むより、1人1人の得意分野が生かせるように環境を整え、日々、確実な成果へ向かうサイクルをつくることが、新しい時代の上司がなすべき目標管理術といえそうだ。

※すべて雑誌掲載当時

(松隈直樹、澁谷高晴=撮影)
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