納期が迫る中、目標が達成できそうにない。そんな部下の数字をぐっと伸ばすにはどうすればよいか。課長、部長、支社長……それぞれの階層で営業現場を取りしきる辣腕管理職たちが、数字につながる指導法を伝授する。

なぜ顧客の数を1割に減らしたのか

10年7月に発足したリコージャパンは、時代とともに変化する顧客のニーズをすくい上げ、リコーの販売体制を強化するために設立された新会社だ。

リコージャパン 
鈴木太志 

1984年に入社。一貫して営業畑を歩む。91年に営業所長に昇格、1994年には営業所長兼プレーイングマネジャーとなる。2005年10月より現職。

同社の鈴木太志氏は、入社以来営業一筋。現在は東京多摩地区に位置する4つの営業所を束ねる部長として、業績に責任を持つ立場だ。「自分が新人の頃と今とでは、顧客の事情も若手社員の気質もまったく違う」と鈴木氏は強調する。

鈴木氏が最前線にいたのは、地回り営業を至上とする時代。業種にかかわらず、「飛び込みでもなんでもいいから数字を上げろ」と指導された営業マンも多い。

「でも、企業のセキュリティが厳しくなり、中小企業でもアポなしでは会うことも難しい時代。自分が若い頃の常識を若手に押しつけても効果は出ません。一時的に業績が上がっても、持続はしないでしょう」と、鈴木氏はクギを刺す。

「部下を追い詰めても逆効果。数字が達成できそうにない場合は、上司がゴールまでの道筋を見せてあげることです。お客様の情報をもう一度洗い直し、この業種でこの状況なら、こういう課題を抱えているんじゃないか。それならばどういった提案が有効なのか。自分の経験も踏まえてアドバイスしています」

切羽詰まってくると、どうしても値引きで契約を獲得するというやり方に目が向きがちだ。しかし、それでは悪循環になるだけだと鈴木さんは語る。

「次も値引きでしのげばいいと思ってしまい、泥沼からはい上がれなくなる」

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鈴木部長の解決法「部下にどうやってゴールを示すか」

安定して好成績を挙げている部下ほど、早めの準備、早めの達成で好循環をつくり出しているケースが多いという。時間にも気持ちにも余裕があるので、有望な顧客に向けて提案内容を練ることができ、結果的に大口の契約が取れるのが、典型的な勝ちパターンなのだそうだ。

しかし、トップ営業でもスランプに陥るときがある。原因は主に2つ。

「1つは既存顧客がうまくいっていたせいで、新規開拓が手薄になっているケース。同じパイを回るだけでは需要が枯渇していきますから、新たな層の顧客に目を向けさせることです。もう1つは、人間関係の悩みや体調不良など、心身の不調が足を引っ張る場合。何にせよ必ず原因はあるはず。プライベートも含めて、まず上司が話を聞いてやることです」

一方、ずっと業績が低迷する営業マンを伸ばすのは一番難しい。「1つでも本人の得意なことを見つけ、そこに集中させて自信をつけさせる」と鈴木氏は語る。

「100社前後の顧客を担当しながら、成績がふるわない部下に、よい関係が結べている10社に絞って提案をさせるようにしたら、業績がアップしたという例がある」。1人では対処しきれないケースも多い。その場合、技術者と一緒に動くなど、周囲を巻き込んでチームで数字を伸ばしていけばいいと鈴木氏は語る。

昼食は所長クラスを順番に誘い、話をじっくり聞くことにしている。が、その下の営業マンを個別に誘うことはしない。

「『部長と1対1で食事』というのは若手にとって意味が重い。上司の階層が上がるほど、特定の部下をえこひいきしていると思われる行為は控えるべきです」

若手から緊急のSOSがあれば、直接対処することもあるが、直属の所長のプライドを害さないよう、必ず事後報告する。組織の序列を崩さず一丸となって戦う姿勢が強いチーム力を生んだのか、金融危機後も業績はずっと好調なままだ。

※すべて雑誌掲載当時

(永井 浩、澁谷高晴=撮影)
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