お客様が利益を持ってきてくれる

顧客満足度とリピート利用は相関関係に
図を拡大
顧客満足度とリピート利用は相関関係に

資生堂では、営業改革の一環で販売員や営業担当社員のノルマを撤廃し、お客様からのアンケート結果や来店客数、再来店率などの評価指標を導入した。

その狙いについて前田新造社長は、「美しく健やかであり続けたいと考えているお客様に対し、100%お応えすることが結果としてお買い上げに結びつき、継続的に足を運んでいただけることにつながる」としている。

当然ながら、資生堂は事業所別の売上高予算まで撤廃したわけではない。顧客満足度(CS)を追求すれば自ずと売り上げ目標は達成できるとしているのだ。

「CSを重視するのは、満足感と顧客のリテンション(維持)との関連性が強いからです。ダイレクトに利益と結びつくと言っては語弊がありますが、お客様が満足すれば再び買ってくれる。つまりCSを高めればお客様が再び利益を持ってきてくれる」(J.D.パワー アジア・パシフィック・鈴木郁執行役員)

たとえばJ.D.パワーのホテル宿泊客満足度調査では、図のように顧客満足度と再利用意向の相関関係がきれいに表れている。この結果はホテル業界に限らないという。

物質的に満たされた現代において、消費者がモノを購入するのはそれを手に入れること自体が目的ではなく、「この化粧品で美しくなりたい」というように自分の欲求を満たすためである。このような時代には「どう売り込むか」より「お客様の欲求をどう充足するか」に取り組んで自社ファンを増やすことが重要であり、その指標としてはノルマでなくCSを用いるのが当然となる。

ノルマよりCSを大事にするという考え方を正面切って否定する人は少ないが、実際に導入するとなると「売り上げが落ちる」「販売員が怠ける」と反対されがちである。成果に結びつくようCSに取り組むためにはどうすればよいか。

そのポイントの一つはCSを「全体として良い・悪い」の総合評価だけではなく、満足感を構成するさまざまな要素についてアンケート等を通して数値化し、改善の材料とすることだ。

「CS調査には自社のポジションの把握だけでなく、どこに強み・弱みがあるかを把握して改善に役立てるのです。たとえば営業マンの対応、アフターサービスなどさまざまな項目についてCSを調査し、各項目が満足度にどれだけ影響を与えるかを分析すれば、自社に足りない点が見えてきます」(鈴木氏)

ちなみに前述のホテル宿泊客満足度調査では「予約」「客室」など8分野で50の詳細項目について調査しており、しかも価格帯の異なるホテルでは満足感に影響を与える項目が違うという。

お客が本当に欲しいのは「化粧品」ではない

お客が本当に欲しいのは「化粧品」ではない

また、自社の数値だけで強み・弱みを判断せず、競合他社の数値と比較することも必要だ。

「ある項目で自社が80%の満足度を達成していても、競合他社が90%なら相対的に弱いということになります。他社と比較しないと競合関係における自社のポジションが見えず、判断を誤ってしまう」(同)

CSを単なるスローガンではなく競争戦略と捉え、適切な打ち手を見出すツールとして調査を活用することが、成果につなげるポイントのようだ。

ちなみに、CSへの取り組みが売り上げに結びつくまでには「2~3年はかかる」(同)。したがって経営者がCSの意味と重要性を理解し、長期間ブレずに方針を貫徹することが不可欠であろう。

(坂本道浩=撮影)