経営方針が異なるマクドとモス
よく「利益率が同じなら収益力は同じ」というが、それは間違いだ。ここでいう利益率としてよく使われるのは売上高経常利益率である。図表のように同じ売上高・経常利益のA社とB社があったとしよう。売上高10億円、経常利益5000万円なら、利益率は5%だ。しかし、両社の収益力は同じではない。
これはあくまでも一時点の静態的な数字だからなのだ。図表を見てほしい。同じ売上高・経常利益でも、2社の変動費と固定費は異なる。ここでは、A社は比較的変動費が少なく、固定費が多い。B社はその逆だ。
これによって何が違うかというと、それは損益構造である。売上高が増減したときの利幅のブレは、固定費型のA社のほうが、変動費型のB社よりも大きい。ちなみにA社の場合、売上高が10%増えると経常利益は9000万円となり、増益率は80%。反対に10%減ると1000万円、マイナス80%となってしまう。いわばハイリスク・ハイリターン型の財務体質であることがわかる。
一方、B社を同じ条件で見てみると、経常利益の増減の幅がプラス・マイナス2000万円で動く。増減率の幅は40%。こちらはローリスク・ローリターン型といっていい。つまり、変動費と固定費の構成の違いが損益構造に影響を与えるのだ。
どちらがいい悪いという話ではない。大切なことは、それぞれの会社を取り巻く経営環境によっていずれの損益構造を選択するべきかという問題なのだ。
ただ、売上高が減少したときにどの程度のインパクトが経営に与えられるかという意味では、変動費型のほうがインパクトが少なく、その意味で不況抵抗力は高いといえる。
また、新規創業したばかりで、将来の売り上げが読めない段階では大きなリスクを冒せないので変動費型にするべきだ。事業が軌道に乗りだし、ある程度安定的な売り上げが見込まれるようになったら、徐々に固定費型にシフトしていくことになる。
このことは、同じ業界に属する企業であっても、経営のやり方で財務体質が大きく異なるという視点で説明ができる。例えば、マクドナルドとモスフードはいずれも全国展開をしているハンバーガーチェーンだ。しかし、この2社はまったく異なった経営方針で運営されている。
すなわち、マクドナルドは直営店中心の店舗展開を行っており、逆にモスフードはFC展開がメーン。直営店中心のマクドナルドは飲食店特有の変動費率が低く(売上高比約35%)、固定費が多い損益構造になる。一方モスフードの売り上げはFCへの食材の売りとロイヤルティーがメーンで、マクドナルドの自前主義に比べると変動費率は高くなる(売上高比約55%)。
このように同じ業界に属しているからといって、単純に利益率などを比較して評価してもあまり意味はない。大事なことは、それぞれの企業の特性を踏まえて、仮説をもって数字を分析してみることである。
そして、企業の業績を正しく把握するには、単純に数値の高い低いを比較することにはあまり意味はない。むしろ業界の平均値やライバルの数値の時系列変化の傾向と比較するのだ。例えば、ライバルと自社のある時点の利益率を100とし、その後の一定期間内の伸び率をグラフ化するのも有効だろう。
単に利益率を比較するといった単純化の罠にはまらないよう注意が必要だ。