「使えない」部下の指導に悩むことは、マネジャーを経験した者なら一度は通る道だろう。チームの足を引っ張る「お荷物社員」戦力化のコツを心理学と行動科学マネジメントそれぞれの立場から解説する。
「うまく叱れない」マネジャーの深き悩み
「どうやって“使える”部下に育てていけばいいかわからない」――。こんな悲鳴にも似た声が、あらゆる業界のマネジャー職から聞こえてくる。部下を指導、育成するには「褒めて伸ばす」「叱って伸ばす」、いわばアメとムチを巧みに使い分けるのが一般的だが、最近はムチの使い方に苦慮する上司が多いというのだ。
「部下に次のステージへ上がってもらいたいという思いから、厳しくとも励ましの意味でノルマを与えたつもりがプレッシャーになり、反対にモチベーションを下げてしまう結果になった」
こう話すのは、大手食品メーカー勤務の40代マネジャーの福本充氏。入社歴20年を超える彼は、これまで多くの部下を指導し、有能な営業パーソンに育て上げてきた。
福本氏が目標に届かない部下を指導する際のモットーは「感情的にならず、後でフォローを入れること」だという。
「自然体で臨むということでしょうか。人にはいろいろなタイプがありますから、それは尊重しつつ、目標に向かい同じベクトルにのるために、時には叱ることも必要だと考えています」
福本氏自身は団塊世代を上司に持ち、殴られ、時には靴や灰皿を投げつけられながら育ってきた経緯がある。ところがそういった激情に身を任せる上司を見ながらも「上司からの信頼や愛」を感じ取れたから、それを理不尽に感じることは少なかったという。
「かつて私が弱音を吐き現状から逃げようとしたとき、『そうするのも君の自由だが、次のステップは目指せない』と諭してくれた上司がいました。これは私に判断を委ねることで、プライドを傷つけないように配慮したうえの言葉だったのだと思います」
なかには考えを曲げず直情径行、意見すれば評価を下げるといった、支配型の上司もいたという。しかしながら、反面教師も含め数多くの上司から部下を育成することの意味を学んだ福本氏だからこそ、「傾聴してから諭す」いまのスタイルに辿り着いたともいえる。とはいえ、叱る技術については磨きをかけていく必要があると自戒する日々だそうだ。