毎朝6時選手の手本となるべく練習場に立つ
指揮官のどんぐりマナコがゆるんでいる。冷たい雨粒がぱらつく中、小柄な52歳が花束を高々と掲げた。ファンの代表から贈られた日本代表の象徴、サクラの交じる花束だった。
日本の最高峰リーグ、トップリーグ決勝戦の表彰式である。これぞ監督の最高の瞬間か。エディー・ジョーンズは、常に勝つことのみ、その一点にフォーカスする。よき準備をする。
2月26日。秩父宮ラグビー場。サントリーは、自慢の「アタッキングラグビー」でパナソニック(旧三洋電機)を下した。エディーの指導力と選手の情熱が結実し、勝利となった。
サントリーには、強い組織づくりの理想像が透けて見える。エディーの顔がくしゃくしゃになっている。
「ヘッドコーチとして、喜びは2つ、ある。1つが勝ったとき。2つ目は、選手の成長をマヂカに見るときです」
では、つらいことは。
「これも2つ、ある。1つは負けたとき。でも、なぜ負けたのかを考える。修正し、正しい準備をしていけば結果はついてくる。2つ目が、選手に来シーズンは契約できませんと伝えるとき。試合のメンバーに入れませんと言うとき。このときはいつも心で泣いている」
文句なしの名将である。南半球のスーパーラグビーでブランビーズを優勝に導き、豪州代表監督として2003年ワールドカップ(W杯)準優勝、南アフリカ代表アドバイザーとして07年W杯優勝を遂げた。
情熱の人である。「365日ラグビー漬け」である。
シーズン中も、毎朝4時半、目を覚ました。5時。まだ暗い中、外苑前の自宅から府中のサントリーのグラウンドまで、自分の車を走らせる。
5時半には到着する。6時からの早朝練習に参加するためだ。社員選手たちが出勤前、ジムでトレーニングをする。エディーも運動をしながら、選手の動きをさりげなくチェックする。
「選手たちに“やろう”と言うのであれば、指導者はお手本にならなければならない。彼らのことを観察もしています。表情は必ず、見る。コンディションや性格もわかってきます」
ヘッドコーチのもっとも重要なスキルは「観察力」である。グッドコーチはグッド・オブザーバー(観察者)なのだ、とエディーは言い切る。