なぜ、ヤオコーのパートさんは生き生きと働いているのか。なぜ、被災しても一番乗りで開店できたのか。同社が成長を続ける理由も、そこに隠されていた。
自由度の高い職場ほど、生産性が高い
全米ベストセラーになった『選択の科学』(文藝春秋、2010年)の中で、米国の老人ホームでの実験結果が紹介されている。著者は、盲目のインド人女性心理学者、シーナ・アイエンガー教授である。
1976年、米国コネチカット州にある高齢者介護施設を2人の心理学者が訪れて、ある心理実験を行った。彼女たちは、2階建ての介護施設で暮らしている老人たちを各階ごとに集め、看護師に別々の説明をしてもらった。ある階の集まりでは、入居者一人ひとりに鉢植えを配り、鉢植えの世話は看護師がしてくれると伝えた。別の階の入居者には、入居者に好きな鉢植えを選んでもらい、その世話は自分がするようにと伝えられた。
その後の観察から、驚くべき事実が浮かび上がった。3週間後に、ふたつのグループを比較したところ、鉢植えを自分で自由に選んだグループは、鉢植えを与えられたグループに比べて、生き生きとしており、他の入居者との交流も盛んだった。「選択権なし」の集団では、入居者の70%以上に身体的な健康状態の悪化が見られた。一方、「選択権あり」の集団では、90%以上の入居者の健康状態が改善した。
鉢植えの選択と世話という些細な違いなのだが、自分で決められる状況に置かれたほうが、人間は結果に対して満足度が高く、生き生きと行動できることを示す研究であった。
日本の小売業の現場では、たくさんの人が働いている。そのほとんどが、女性のアルバイト従業員である。年齢もパート勤めを始める動機も、置かれている状況もさまざまである。
ただし、現場に入って彼女たちを観察していると、会社によってその働きぶりに違いがあることに気づく。老人ホームの事例で見たように、パート社員が生き生きと働いている仕事場もあれば、鉢植えを選べなかった集団のように、与えられた仕事を単に黙々とこなしているだけの会社もある。結果として、自由闊達に仕事に取り組むことができる職場では、労働の人時生産性(従業員1人が1時間に稼ぐ粗利益)が高いことが知られている。
以下では、「自由に鉢植えを選ぶこと」を奨励している代表的な企業を紹介する。埼玉県川越市に本社がある食品スーパー「ヤオコー」である。11年12月末現在、関東圏で116店舗を展開している同社は、22期連続で増収増益を続ける優良小売業である。