自ら被災しながらなぜ翌日の営業再開ができたか
浦安東野店のパートナーさんたちの多くは、自らも被災している。それでも、店舗や売り場を心配して、命令されてもいないのに出社して、翌日の営業にこぎつけられた理由は、斉藤さんがインタビュー中に話してくれた言葉によく表れていた。
「ここは、自分の店、自分の職場です。自分の仕事だから責任があるんです」
パートナーさんたちがこれほどまで仕事に熱意をもって取り組んでいるのは、人材育成の仕組みに理由があるのではないかと思った。実際のところを、川越本社で、中村健人事部長(57歳)に伺うことにした。
先にあげた決算賞与の配分以外に、ヤオコーには、パート社員のモチベーションを高めるための仕組みがある。
そのひとつが、パートナーさん向けの「技能検定」である。ヤオコーの110数店舗では、総菜や寿司、インストアベーカリーなど、品質を安定させることが必要なアイテムがある。その多くは、パートナーさんたちが店舗で素材に手を加えて完成させている。技能検定は、そうした単品の商品化技術を向上させるために設けられた仕組みである。
「各部門ともに商品化技術には4つの段階があって、(パートナーさんの)名札の下にシールを貼っていくのです。4つとも取得するとマイスターというふうに」(中村部長)
2番目は、06年5月から始まった「感動と笑顔の祭典」である。ヤオコーの全店舗は、10カ所の販売地区(ブロック)に分かれている。毎月、各地区から1店舗ずつ代表として選ばれたパートナーさん(チームの代表者)と店長がペアになって、店舗での新しい取り組みや改善提案を発表する。
南古谷の研修センターで開かれるこの発表会には、ヤオコーの川野幸夫会長と清巳社長も同席し、優秀賞の選考に加わる。年間最優秀賞の受賞者には、米国視察研修ツアーへの参加というご褒美もある。徹底的に、ほめて実力を伸ばそうとする人事政策であり、研修制度である。「感動と笑顔の祭典」のような表彰制度によって、パートナーさんたちに適度な緊張感を与え、目に見えない競争原理を働かせる。そして、仕事に対する充実感と自己実現を確認させる場を提供している。
こうした職場の雰囲気は、ヤオコーの社風からきているように思える。
中村部長に「パートナーさんの採用基準はどうなっているのですか?」と伺ったところ、「そのひとの人柄とご本人が働ける時間帯ですかね」とのお返事だった。採用は完全に店舗に任せてある。「まあ、面接は10分か15分の短い時間ですから、そのひとの能力を正確には判断できないですよね」(中村部長)。
だから、パートナーさんの採用基準は「人柄」ということになるのだろう。人間の能力を固定したものと考えるのではなく、「才能は伸ばすもの」という前提に立っているのである。ヤオコーの経営者が職場環境のデザインで重視するのは、指揮命令系統の確立ではない。
ヤオコーの川野会長が、困難な問題の解決方法を問われたときの「きまり文句」を紹介して本稿を終えたい。このエピソードは、ヤオコーの社風=「社員を信頼して、全面的に仕事を任せる」をよく反映している。
「会長、こんな問題があって困っているのですが、どうしたらいいでしょうか?」と部下から問われた川野会長は、いつも同じ答えを返すのだそうだ。
「自分の頭で考えなさい!」