食品スーパーは、セルフサービスを基本としている。商品が置かれた場所などを聞かれた場合は別として、従業員から来店客に声かけすることはない。しかし、ヤオコーは例外のようだ。たとえば、クッキングサポート・コーナーでは、いい意味の「雑談」が許されている。むしろ会社としては、積極的に顧客とコミュニケーションをとることを推奨している。伝統的なセルフサービスの考え方は、ヤオコーでは通用しない。
昨年から、ヤオコーでは、パートナーさんの定年を5年間延長することにした。65歳定年制に変えたのは、斉藤さんのようなパートナーさんが職場を離れることで、せっかく築いてきた顧客との良好な関係を失うからである。
「60歳とはいっても、ここの女性たちは元気ですよ。まだまだお若いですし」(木村店長)
木村店長のような若手の社員は、担当する店舗や売り場が3年くらいで異動になる。お店のことをいちばんよく知っているのは、パートナーさんたちである。実際にその町に暮らしているので、パートナーさんたちは、小学校の運動会や花火大会、ダンスの発表会がいつあるのかなど、地元の行事やローカルな情報にも精通している。浦安は漁師町だったせいもあって、お祭りがとても好きな土地柄なのだそうだ。
「花火大会や地元の祭りのとき、晩ご飯用の食材はだめです。お弁当や総菜など、すぐに食べられるものが売れます。そういった話はパートナーさんたちから出てきます」(木村店長)
昨年3月11日、東日本大震災で浦安東野店も大きな被害を受けた。
「当日は、それはもうたいへんでした。(液状化で)床から泥水があがってきて、クッキングサポートのあたりなんかも、ホコリで真っ白」(斉藤さん)
当日は来店客を安全に避難誘導して店を閉めたが、ヤオコーの店舗だけは、浦安地区ではもっとも早く翌日には営業を再開している。他店との違いは、パートナーさんたちが持っている「当事者意識」の差なのではないかと私は感じた。