こんなことがあった。ある若手プロップが練習でボールを前に落とした。セービングという、ミスをカバーする動作をとらなかった。同じミスを2回、やった。即、個人面談を開いた。半分ジョーク、半分本気で。

「手帳に彼の名前を書いて、ラスト・チャンスと言った。“同じことを練習でやったら、もう君はチームにはいられない。これからはずっと、社業に専念してもらうよ”って」

カルチャーでいえば、練習では「常に100%」もそうである。

監督に就任した日。「ラスト10分のランニングも100%で」と指示したのに、選手がひざに手をついてゼエゼエと呼吸しながら止まっていた。「ストップ!」。その場で練習を取りやめた。練習時間が長すぎるからだと判断し、翌日からメニューを改善した。

「ひざに手をつくのは、“負けた”というボディランゲージなのです。向上心がなくなれば練習の意味がない」

ハードワークと、長時間練習は違うのである。「規律」を維持しながら、考えさせる。練習のタイムマネジメントも厳しい。サントリーの場合、FWのユニット練習20分とすると、「スクラム3分、ラインアウト4分……」と分刻みでメニューを与える。

「練習もディシプリンがないとダメでしょ。練習はドラマみたいなもの。ドラマって、あっと終わると、次を見たい、と思うじゃないですか。練習も同じで、明日また、グラウンドに来たいと思わせるように終わらないといけない。カムバック、ネクストです」

つまりは向上心を刺激するということだろう。小生はラグビー部時代、ずっと練習が嫌いだった。たぶん、大多数の選手が同じではないか。

ついでにいえば、サントリーはチームラウンジで携帯電話の使用は禁止となっている。スタッフと選手がより会話を交わすためである。

じつは監督就任前のゼネラルマネジャーのとき、こんな体験があった。空港の待ち時間、選手たちがレストランにいた。若手5人は1つのテーブルに座り、無言で携帯ばかりを扱っていた。

「アン・ビリーバブル!」と思った。

「だって、コミュニケーションをとるために同じテーブルに座ってビールを飲むんじゃないの」

コミュニケーションでいえば、エディーはグラウンドで英語は使わない。ぎこちない日本語で選手に声をかける。

エディーが最初、サントリーでコーチを務めた1997年、選手との距離を縮めることができず、悩んだことがあった。言いたいことが伝わらない。通訳を通しているからじゃないのか、と反省した。そこで必死で日本語を勉強しはじめた。翌年から、グラウンドでは英語は使わない、と決めた。

エディーは選手のやる気を最大限に引き出す努力を怠らない。ユーモアあふれる言葉で選手を刺激し、緻密な準備を重ねていく。目的をはっきりさせ、結果を積み上げていく。

ベテランの日本代表、小野沢宏時にエディーの長所を聞くと、「コーチングが明確なこと。モチベーションを下げないよう声をかけてくれて、選手全員を同じ土俵に上げてくれる」。