※本稿は、山口周『クリティカル・ビジネス・パラダイム 社会運動とビジネスの交わるところ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
クリティカル・ビジネスに起業は必要ない
クリティカル・ビジネスを始めるにあたって、会社を辞めてコミットする必要はありませんし、投資家から莫大な資金を集める必要もありません。必要と思われる最優秀の人材を雇う必要はありませんし、そもそも会社を立ち上げる必要すらありません。
ステークホルダーのコミットメントも、潤沢な資金も、優秀な人材も、あるに越したことはありませんし、いずれはどうしても必要になるものではありますが、クリティカル・ビジネスを始めるにあたっては、まずは「手元にあるものでとにかく始める」のです。
歴史を振り返ってみれば、多くのスタートアップが、本業を抱えながらサイドプロジェクトとしてスタートしていることに気づかされます。Facebookはもともと、マーク・ザッカーバーグが学生時代にふざけて作ったFACE MASHというゲームでしたし、Twitterはもともと、創業者たちが関わっていた本業である仕事のかたわら進めていたサイドプロジェクトから生まれています。
アップルもGoogleもFacebookもYahoo!も、もともと会社にするつもりもなく始まった、遊びや趣味や好奇心によって駆動されたイニシアチブです。彼らは、会社を作るためにイニシアチブを立ち上げたのではなく、まずイニシアチブを立ち上げ、それが盛り上がってもう会社にしないとどうしようもない、という状況に至って会社にしているのです。
「早く、小さく」試し、だんだんと大きくする
なぜ「手元にあるもので始める」ことが重要なのでしょうか? 理由は大きく三つあると思います。
1:リスクの低減
2:ステークホルダーの誘引
3:学習の加速
順にいきましょう。
クリティカル・ビジネスの実践にあたって「手元にあるもので、とにかく始める」ことが求められる理由の一つ目が「リスクの低減」です。
クリティカル・ビジネスでは、それまで社会の多数派には認められていなかったアジェンダを取り上げ、新たな問題提起を行います。そのため、取り上げたアジェンダがどれだけ多くの人々の共感を得られるかについて、常に大きな不確実性を伴うことになります。この不確実性は、市場リサーチやシミュレーションによって小さくすることはできません。
では、どうするか? 「とにかく早く、小さく試してみる」ということに尽きます。小さく試してみてポジティブなフィードバックがあれば、少しストロークを大きくしてみる。
そしてさらにポジティブなフィードバックがあれば、またさらに少しストロークを大きくしてみる。これは投資の世界においてリアルオプションと呼ばれるアプローチですが、同様のアプローチがクリティカル・ビジネスの立ち上げにおいても有効です。