そこで本音を引き出すために心掛けた気配りは「司会者に徹すること」だった。

例えば、顧客夫婦が子どもを連れて来店したとしよう。甘い飲み物を出してリラックスしてもらってから、本題の設計プランの話に入る。

笹沢さんが「リビングはどんな感じがお好みですか?」と質問して妻が「開放的な広いリビングがいいわね」と答えたら、笹沢さんは「ご主人様、その件に関してはいかがですか?」と質問を振る。次に「お坊ちゃんはどう?」と問いかける。決して、笹沢さん自身の意見は述べない。

「家族同士で話し合ってもらって、家族のコンセンサスを得ることが私の役目だと心得ていました。なぜなら、競合他社の住宅も含めて比べたとき、価格・性能・構造で圧倒的優位に立つのは難しい。ではどこで差をつけるかというと、家族で決めた家という納得感・満足感なのです」

笹沢さんは『次工程はお客様』だと考えている。営業マンが受注しただけでは家は建たない。受注後には企画設計→生産設計→工場生産→施工という長い工程が待っている。ところが“受注したのはオレだ”という意識でいると、往々にして後工程に対して威張るという事態が起きてしまう。

「でもそれでは工程がスムーズに流れないし、社内の信頼を失ってしまう。そして何か起こったときも助けてもらえなくなります」

笹沢さんの営業マン時代の気配りは、今の広告代理店の仕事にも生きている。加えて、社員には「お客様に不安を抱かせないような心配り」を厳しく求めている。

「どんな仕事でもトラブルは避けられない。そこでトラブルが生じたときは、お客様が抱く不安をリストアップして先回りして答えたり解決策を提示して、不安を解消していく気遣いが必要だと思います」

差別化が難しい時代だからこそ、コストゼロで効果抜群の気配りが求められている。

※すべて雑誌掲載当時

(名取和久=撮影)
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