「腹八分目」で寿命は延びる

昔から「腹八分目が健康にいい」といわれてきました。

江戸時代の儒学者である貝原益軒の書いた医学書『養生訓』に、こんな一節があります。

「珍美の食に対すとも、八九分にてやむべし。十分に飽きみつるは後のわざわいあり。少しの間、欲をこらゆれば後の禍なし」

つまり腹八分目を心がけようということです。

満腹になるまで食べるのではなく、「まだ食べられるけれど、けっこうおなかいっぱいになったから、このへんでやめておこう」というのが腹八分目です。

腹八分目が体にいいという説が科学的に正しいかどうかを、1990年に実験でたしかめた人がいます。私の師匠である東海大学の田爪たづめ正氣せいき先生が、満腹のマウスと腹八分目のマウスの寿命を比較しました。

田爪先生の実験によると、いつも満腹になるまで食事をしていたマウスが、マウスの平均寿命である約2年生きたのに対し、いつも腹八分目だったマウスは約3年生きました。つまり寿命が1.5倍になったのです。

1.5倍というのはかなり大きな差ではないでしょうか。人間の寿命が100歳だとしたら、その1.5倍ですから、150歳まで生きることになるわけです。

このとき田爪先生は、腹八分目のマウスは活動量が多く、満腹のマウスは活動量が減ることも発見しました。人間もお腹がいっぱいになると動きたくなくなります。活動量が減るのはそのせいかもしれません。あるいは腹八分目のときはもっと餌を探そうとして、活動量が多くなるのかもしれません。いずれにせよ、食べる量を減らすことと、適度に運動をすることで寿命が延びるのは間違いないようです。

私たちも活力を得るためには、必要以上に食べないことを心がけることです。それが体に休養をとらせることになります。

むしゃくしゃするとスイーツが欲しくなる理由

「腹八分目が健康にいい」とわかっていても、ストレスがかかるとやけ食いをしたり、甘いものを食べたくなったりしませんか?

これはストレスを何とか抑えようとする体の防御反応、自己防衛行動です。

食事をとると、副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。ストレスがかかると分泌されるホルモンです。コルチゾールには、抗炎症作用と免疫抑制作用がありますが、そのほかに、血糖値を上げる作用もあります。

まず、食事をとると当然、血糖値が上がります。血糖値が上がるとインシュリンが膵臓から出てきて血糖値を下げようとし、そのあとに血糖値が一気に下がります。今度はこの下がった血糖値を上げないともとの状態に戻りません。このときにコルチゾールが出ます。

コルチゾールはストレスに対抗しようと交感神経を上げるので戦闘態勢に入ることができます。ですから、むしゃくしゃすると何か食べたくなったり、甘いお菓子を欲したりするのです。