初めに感動ありき

こうした経緯の前シリーズを経て、18年ぶりに新シリーズが始まった。

ところが過去の教訓は活かされていなかった。世界一の電波塔を建設するための技術論と、実際に担った3つの異なるとび職チームの組織論や人間関係はよく描かれていた。

しかし興味深い事実の数々を、完成前に亡くなった関係者の死で引き取るのは正しかったのか。

エンディングで総合所長の妻が登場する。

江戸川の土手を歩き、亡き夫の遺影にスカイツリーを見せている。普通こんなことを遺族がするだろうか。明らかに依頼したシーンだ。“お涙ちょうだい”が前提ゆえのロケと言わざるを得ない。

市川市からみる東京スカイツリーと富士山
市川市からみる東京スカイツリーと富士山(写真=Atomark/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

前シリーズは“失われた10年”のタイミングで放送された。

さまざまなプロジェクトで活躍した無名の人々の奮闘ぶりを描こうというものだった。日本に元気を取り戻そうという狙いがあった。

ところが“10年”は“30年”となった。

そのタイミングで放送される「新プロジェクトX」について、MCを務める有馬嘉男記者は「人びとの働き方や価値観が大きく変わった平成・令和のプロジェクト。個人的には、昭和からの決別とでもいうような裏テーマを考えてみた」としながらも、「上司と部下との信頼関係やチームワーク、家族愛や友情といったいつの時代も変わらない人びとの思いが突き動かしている。だから新シリーズでもやることは変わりません」と、昭和からの決別という言葉とは裏腹に、むしろ昭和踏襲を目指すかのような発言をしている。

つまり“初めに感動ありき”の姿勢は変わらずに、再スタートしたのである。

時代認識は如何?

しかし有馬氏は経済部や国際部を経験した記者だ。

昭和のプロジェクトや当時のやり方が、90年代以降で容易に通用しないことは知っているはずだ。それなのに「努力はきっと報われる」「夢はきっとかなう」などの精神論。“初めに感動ありき”のマスターベーションでは令和の時代に通用しない。

もちろん難工事をやり遂げた現場の奮闘には頭が下がる。

しかし“失われた30年”を経た令和では、もう一歩踏み込まないと社会の前進につながらない。現場の努力は、前提となるグランドデザイン次第で意味合いが変わってしまうからだ。

東京スカイツリーは、地上波テレビの電波を発信する塔だ。

ところがプロジェクトが決まった頃にはすでに、エリア内の半数以上の家庭は直接電波を受信していなかった。ケーブル経由の方が多数派だったのである。

しかも完成した時には、アンテナで受信する家庭はもっと減っていた。

さらにインターネットで動画を見る人が増え、リアルタイムにテレビ放送を見る人は現状では3割以上も少なくなっている。

スカイツリーが無駄で、東京タワーの改修で十分だったと言うつもりはない。ただし、同電波塔の存在意義が薄まっている事実に言及しても良かったのではないだろうか。実際に入場者数も年々減少しており、観光施設としての価値は低下している。

令和の今、プロジェクト内で奮闘した人々の感動だけでは不十分だ。

時間経過の中でのプロジェクトの意味合いなど、時代認識も提示すべきではないだろうか。感動は見る者の思考停止を招きかねない。“失われた30年”を克服するためのヒントも出してこそ、公共放送の存在意義ではないだろうか。

次回は「弱小タッグが世界を変えた~カメラ付き携帯 反骨の逆転劇~」と予告された。

なるほど世界初の製品だったかもしれないが、その後の日本は携帯電話の製造市場で苦戦を強いられた。その事実を無視して、「日本は頑張ったよね」と情に訴えて終わってもらいたくない。

教訓と正対するためにも、負の側面も客観的に描いてもらいたいものである。現場制作者の奮闘に期待したい。

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