前シリーズの栄光

実は前シリーズは、NHK局内的に波乱含みでスタートしていた。

NHKの編成表は、伝統的に“土地本位制”だった。ある枠が新番組になるにしても、それまで担当していたセクションがそのまま担当するのが慣例だった。つまり編成枠に制作チームが張り付くという意味で土地本位制だったのである。

ところが2000年春に始まった同番組は、他部の枠を社会情報番組部が提案競争で奪取して始まった。

番組活性化のための措置だったが、部長以下の管理職は「何が何でも成功させろ」と力んでいた。成功とは、高い視聴率をとること。ゆえに番組マーケティングという、当時のNHKでもまだあまり実施されていなかった調査を事前に行うことになった。

それを担当したのが筆者だった。やり方はこんな感じだ。

NHKの番組を見るか見ないか、境界線上にいる視聴者を集め、試作番組を見せて「どう作り変えたら見てもらえるか」を追究すること。こうした層が見てくれれば、視聴率は自ずと上がるという理屈だ。

タイトルの付け方、番組オープニングの構成、VTRの内容、スタジオ部分のあり方などを検証したのである。

この結果、番組作りの常識が大きく変わった。

それまでNHKでは、VTRに出てくる人がそのままスタジオに登場することはNGだった。ところが視聴者に問うてみると、「テーマと関係ない評論家やタレントの話を聞くより、プロジェクト当事者の生の声を聞きたい」と返ってきた。かくして同番組のスタジオゲストは、VTRにも登場するリーダー達となった。筆者が知る限り、NHKでは初めてのことである。新プロジェクトX初回でも、塔の設計や実際に工事を担当したとび職が登場した通りだ。

こうした努力もあり、当初は好調だった。

平均視聴率は最初の1年で2%、次の年は3%ほど上昇した。独特のナレーションと中島みゆきの主題歌の効果もあり、次第に“プロジェクトX現象”と言われるほどだった。

厚化粧で課題噴出

ところがその後、同番組には「事実が違う」などの抗議が来るようになった。マンネリ化も加わり、視聴率の勢いは衰えた。そして2005年で事実上の打ち切りとなった。

問題の背景には、わかりやすい感動のための単純化や事実改ざんがあった。

実は筆者は前シリーズ初回の調査の際に、番組責任者とこんな議論をした。

「技術や組織論などの事実4割、厚化粧演出6割でできているが、事実を6~7割淡々と見せても十分視聴率はとれる」

これに対する回答は「絶対に失敗するわけにはいかない。今のやり方しかない」だった。

当時の事実改ざんややらせについては、これまでに複数の業界関係者や専門家から指摘されている。筆者が残念でならないのは、過去の成功物語を再現映像中心に描いており、過剰演出となりやすい状況にあった点だ。番組マーケティングという調査手法では、そんな演出の危険性について根拠をもって指摘できなったのである。