カビが作る化学物質には無害なものもある

さらに、小西教授は付け加えます。

「今回の製品の急性毒性は非常に高いとみられるのに対し、この物質がそこまでのものなのか、疑問もあります。それに、この物質を産生するとされる青カビは、紅麹原料で増殖すると青や黄色の色素を出すため、原料の取り扱いや製造段階で異常に気付かなかった、というのも不思議です。厚労省などが生産工程を調査し、国立医薬品食品衛生研究所などが試験を始めると思いますので、原因物質の判断、最終結論はその結果を待たなければなりません」

カビは多種多様な化学物質を作り出します。たとえばペニシリンは、青カビから見出された抗生物質。ほかにも、カビから見出された化学物質で医薬品へと発展したものが多数あります。紅麹菌自体も、コレステロールを下げる化学物質(モナコリンK)を産生するカビの一種です。

一方で、カビが作る化学物質の中には、ヒトなどに無害無効果の化学物質もあります。さらに、実験動物試験の段階で毒性が確認されたり、食中毒の原因究明の結果、化学物質として特定された場合には、「カビ毒」と呼ばれるようになります。

したがって、プベルル酸は、「食品を汚染するカビ毒」とは今の段階では言えません。

「入念なバリア」でもカビは生えてしまう

仮にプベルル酸が原因だとすると、どのような混入ルートが考えられるのか。小西教授は次の二つがあり得ると言います。

① 生産工程(環境も含む)での混入
② 原料からの混入

①の生産工程(環境も含む)におけるカビの混入は、汚染=コンタミネーションと呼ばれるもので、一般的な食品製造においても起きます。カビの胞子は、空気中をふわふわと漂っており、一般的な室内で1m3あたり数千個の胞子が検出される場合もあります。エアコンからの出口や人の出入り、ゴキブリやハエ、カビを食べる微小昆虫のヒメマキムシ、チャタテムシなども介して、混入が起き得ます。

食品工場ではこうしたカビの混入を防ぐため、製造場内を陽圧、つまり製造場外より気圧を高めて空気が外から中に入らないようにしたり、温度や湿度のコントロールなども行って、工場内でのカビの増殖を抑えます。しかし、努力しても施設の隅や壁などでカビが増えたりして食品に付き、食品の包装が不十分だったりすると食品にカビが生えてしまう事故が起きます。