「食品だから安全」は幻想にすぎない
小林製薬の紅麹サプリメントの健康被害問題により、健康食品の生産管理の難しさがクローズアップされています。健康食品の原料の多くは、食品自体だったり植物や微生物だったり。「食品だから」「伝統的なものだから」「自然だから」というフレーズで、安全・健康という幻想がふりまかれています。
紅麹サプリも、そんな幻想に乗った製品でした。しかし、これまで書いたとおり、紅麹菌と麹菌は異なる「種」であり、紅麹が伝統的な食品であったという科学的根拠はありません。実際には、効果は医薬品相当の成分によるものであるにもかかわらず、管理はずさんであったことを前回の記事で指摘しました。
自然はむしろ、怖いものです。「食品だから安全」というイメージは、間違っています。食品はそもそも、さまざまな化学物質や微生物などを含んでいて、ゼロリスクではなく、ちょっとした瑕疵が健康被害に直結します。
健康食品の問題を長年検討してきた畝山智香子・立命館大客員研究員は「食品の安全マージン」という概念を知ってほしい、と言います。この概念が、紅麹サプリメントや機能性表示食品制度の問題点を理解し、今後の制度の行末を考えるうえで、非常に重要になってきますので解説します。
安全マージンの小さい食品が多数ある
マージン(margin)は、勝敗などでの差、開きを示す言葉。食品の安全マージンは通常、食べて健康に影響が出る量と実際の摂取量の差を表します。多くの人が、食品には健康を脅かすような物質は含まれていないと考えていますが、そうではなく、毒性物質が含まれていますし、有害な微生物が含まれる場合もあります。
化学物質、微生物ともに、図表1のように、摂取量が増えると健康影響が表れ大量摂取になると深刻な影響をもたらしますが、無毒性量を下回ると影響は検出されなくなります。
できれば、摂取量は無毒性量を大きく下回る程度にとどめておきたいところ。これが「安全マージン」です。そして、普通の食品の安全マージンは、意外に小さいことが多いのです。つまり、健康影響が出る量に近い量を食べている場合が、けっこうあります。