NHKもエコーチェンバーのひとつ

また、NHKの「公共放送」によってSNSやYouTubeの「デマ、ウソ、誹謗中傷」から守るという主張だが、これには失笑を禁じえない。なぜなら、NHKの番組を見ているのならともかく、見ていないのだから、そのような効果があるはずがない。

特定のSNSアカウントやYouTube番組を常習的に見る人は、一種のエコーチェンバーに入っている。つまり、限られた数の同じ思想傾向や好みを持った人が互いにワーワー言い合い、同調し合あう、狭い閉じられた情報空間だ。彼らはほかのエコーチェンバーの人びとには同調しないし、意見交換もしない。

エコーチェンバーに入っている人は、自分と反対の意見や好みを持った他の人びとのエコーチェンバーを徹底して叩く。実は、数ははるかに多いものの、他のエコーチェンバーとは同調しないし、意見交換することもないという点では、NHKの熱心な視聴者もエコーチェンバー状態にあるといえる。

SNSやYouTubeのエコーチェンバーとNHKのエコーチェンバーは互いに交流することはないのだから、前者のエコーチェンバーの人びとをNHKの「公共放送」によってそれらの害悪から守るなどありえないのだ。

自らの既得権だけを守った新聞各社

このことからも、今回の放送法改正の目的がNHK・総務省の言うようなものではないことは明らかだ。あくまで狙いは「スマホを持っているだけで受信料をとる」ための布石だということになる。

注目されるのは、新聞などのメディア業界が特に強く今回の法改正に反対したことだ。「理解増進情報」という名のもとに、新聞などとバッティングする記事を必須業務として配信されては困るというのだ。

このため、今回の改正点の2つ目のポイントである、「関連情報の範囲を『放送番組と密接な関連を有する』ものに限定し、他のメディア(文字メディア、特に新聞のこと)との公正な競争に支障が生じないようにする」ことにしたのだ。

実際イギリスでは、BBCのローカル局の報道がローカル紙の利害に悪影響を与えるので、そうならないようにチェックされている。

とくに新聞業界は、ワーキンググループが改定の検討に入った段階から、利害関係者として積極的に発言してきた。その成果が「公正な競争に支障が生じないようにする」という内容に結実している。自らの既得権を守ったということだ。