総務省は、NHKの番組配信が放送からネットに移っても、受信料制度を維持することを検討している。早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授は「海外では受信料を廃止したり、広告によって受信料負担を軽減したりする動きが主流なのに、総務省の有識者会議は『受信料ありき』でNHKの未来を決める議論が進んでいる」という――。
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NHKはネット配信でも受信料を徴収したい

総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の「公共放送ワーキンググループ」の議論が終盤を迎えている。

これまで出た結論をまとめると、従来は放送でコンテンツを受信者に届けるのがNHKの必須業務、ネット配信で届けるのが補完業務であったが、これを逆転させ、ネットのほうを必須業務、放送のほうを補完業務にするということだ。これは放送法の改定を要するような根本的な転換になる。放送ではなく通信を主たる業務とするというのだから。

この一環として、「放送業界に係るプラットフォームの在り方に関するタスクフォース」という関連グループは、NHKの地上波放送だけに留まらず、更に国際放送、衛星放送のコンテンツをネットで配信することも検討している。当然の流れだろう。

どうやら、総務省・NHKは、受信料に対する国民の怨嗟の声はまったく無視して、現在地上波、衛星波でNHKが放送しているコンテンツをそのままネットで配信し、受信料はそのまま徴収を続けようとしているようだ。

総務省がスルーしている3つの重要議題

つまり、放送であろうとネットであろうと関係ない、国民の大多数が受信料の徴収に不満をもっていようと関係ない、ネットに移ったあとも放送法で強制している受信料を取り続けていくということだ。これは大いに問題だし、国民の声を無視したものだ。そこで、議論の在り方や議論の内容の問題点を指摘したいと思う。

このためには、何を議題としているかよりも、何を議題としていないかを述べた方が分かりやすいだろう。

1.この検討会は現在NHKの地上波総合チャンネルを週に5分以上視聴する日本人が半数しかいない、これからも減少しつづけていくという事実を問題にしようとしない。需要がないことを無視し、供給のことだけを考えている。

2.この検討会は、公共放送と民放が並立する2元体制を堅持する必要があるというが、なぜ現在のメディア状況の中で2元体制が必要かという議論をしない。公共放送であるがゆえに受信料で支えなければならないということになっているにもかかわらず、その公共放送の「公共性」とは何かも問題にしない。

3.受信料を無料にすることは可能だし、世界の潮流もそうなっているが、そのためにどうするかという議論はしない。最初から、現状の受信料制度ありきで話が進められている。とくに広告収入を得て「自活」することはタブー視している。