位置情報やネット検索履歴も監視される

なお、検問所でのスマホのスクリーニング時には、監視用のソフトもダウンロードされる。それによって、警察ではリモートで対象端末を監視することも可能になるのだ。

たとえば、「浄網衛士」(ジンワン・ウェイシ)というアプリは、スマホのファイルを監視するアプリで、「証拠収集管理」は微信やメールを監視するデータ収集アプリである。これらによって、新たなデータ、写真、GPSの位置情報、ネット検索や通信での危険単語の使用などが監視される。なかでもGPSの位置情報はきわめて強力な個人監視ツールで、個人の行動追跡に広く利用されている。

濃い青色の背景に青色の線で結ばれた2つのGPSピン
写真=iStock.com/Chor muang
※写真はイメージです

なお、住民にダウンロードされるのは、単に個人監視アプリだけではない。たとえば、「人民安全」という住民による密告用のアプリもある。それによって、住民に他の住民の密告を奨励しているのだ。

微信に書き込みしながら監視対象の行動を追跡

こうしたアプリなどにより、ウルムチ市でどれだけの携帯電話使用情報が収集されたかというと、たとえば、ある2年弱の総数では、収集されたSMSメッセージが約1100万件、通話時間記録や通話先データが1180万件にも上っている。ちなみに、同時期に収集した連絡先リストは700万件、端末識別情報などの情報は約25万5000件に達している。

黒井文太郎『工作・謀略の国際政治 世界の情報機関とインテリジェンス戦』(ワニブックス)
黒井文太郎『工作・謀略の国際政治 世界の情報機関とインテリジェンス戦』(ワニブックス)

なお、これらの監視工作では、もちろん電子商取引の購入履歴や電子メールの連絡先なども携帯電話から抽出されている。公安部内部資料の報告書には、微信、新浪微博(中国版ツイッターと呼ばれるSNS)、テンセントQQ(メッセンジャーアプリ)、陌陌(モモ。出会い系マッチングアプリ)などからの情報も含まれている。

なかでも公安部が個人を監視する際に、微信のアクセス情報を頻繁に利用していることが伺える。警察の捜査活動報告書にも、さまざまな会合の記録にも、微信を監視に利用していたことを示す記述がきわめて多い。

興味深い報告もある。公安部が微信の情報をモニターして監視対象の行動を追跡する訓練の報告書だ。その訓練では、囮役の公安部員が微信に書き込みしながら町中を移動し、他の公安部員がその微信の書き込みを監視しながら追跡するというものだった。

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