公衆無線LANや充電サービスを提供する検問所
さらに注目されるのが、「反テロの剣」あるいは「データドア」と通称されているツールの乱用である。これは、個人のスマホに接続してデータをダウンロードするツールで、公安部はこれを町中の検問所で通行人に対して広く強制的に使用している。その対象にはもちろん漢人は含まれていない。
しかもこれは個人の行動を監視するにはきわめて強力なツールであるから、当局が要監視と判断した人物には有無を言わせずに強要する。たとえば、一時期、新疆ウイグル自治区を訪問した外国人旅行者(日本人含む)が空港で強制された実例も多数、報告されている。
町中では、警察が各地に検問所を設置している。検問所は公衆無線LANを住民に提供し、携帯電話の充電などのサービスも行っていて、当局は「地域と警察の距離を縮める役割を果たすもの」としているが、実際には住民監視の出先ポストである。
検問所では、イスラム系住民を見つけると、スマホをこの装置に差し込ませる。すると、自動的にスマホ内のデータ、たとえば連絡先、テキストメッセージ、写真、ビデオ、音声ファイル、文書などを吸い上げ、禁止事項リストと照合する。また、微信やSMSのテキストメッセージも確認する。その時に抽出されたデータは、公安部の自動監視ソフトであるIJOPに統合される。
わざわざガラケーにするウイグル人は「怪しい」
インターセプトが入手したデータベースでは、人口350万人のウルムチ市とその周辺地域で、2年間に200万件以上の検問の記録が含まれている。ウルムチ市郊外の人口3万人のある地域の2018年の公安部報告書には、当局が40カ所の検問所を使って、同年3月の1週間で1860人、4月の1週間で2057人に対してこのスマホのスクリーニングを行ったことが記載されている。
なお、こうした検問所では携帯電話の検査は、スマホが対象であり、旧来式のガラケーには行われていない。そのため住民の中には、検問所でのチェックが煩わしいため、あえてガラケーに切り替える人もいるが、ガラケーを使っているウイグル人、とくに新規でガラケーを購入したウイグル人は「怪しい」として監視対象となることもある。
また、スマホ所有者でも、一時的に電源を切ったり、仮想プライベートネットワーク(VPN)を使用したりすると、それが自動的に探知され、「怪しい」とされる。公安部では確認のために本人に電話するが、それに応答しないと「いよいよ怪しい」となる。したがって、ウイグル人たちは24時間、常に携帯電話の電源を入れておかなければならないし、警察から電話がかかってきたら、いつでも出なければならない。