相手によって態度を変える人は「条件つき愛」の親によく似ている。「条件つき愛」とは、子育てで悩む保護者とのカウンセリングでしばしば問題になるテーマだ。子どもが入学試験に合格したら「よくやった、わが家のほまれだ」とほめる。反対に、不合格なら「こんな試験に落ちるなんて恥さらしだ」と突き放すような親の態度が「条件つき愛」の典型例だ。子どもは親の顔色ばかりをうかがい、心が不安定になる。条件つきで自分を愛する親を心の底では信用することができないのだ。

相手によって態度を変える人が相手に関心をもつのも、地位や財産といった条件つきだ。もみ手で愛想笑いをしていた人間が、こちらの地位や財産がなくなったとたん、見向きもしなくなり、下手をすると馬鹿にしたり、見下したりする。「相手」によって態度を変えるのではなく「財産や地位の上下」で態度を変えているのだ。人の境遇はころころと変わるもの。人の世で財産や地位ほど移ろいやすいものはない。相手の状況によって態度を豹変するような人を信用できないのは当然だろう。

「条件つき友情」を示す「信用できない人」は、なぜ財産や地位を、他人を評価するときの基準にするのか? この心理を説明する鍵が、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックの著書『「やればできる!」の研究』(草思社)にあると筆者は考えている。

ドゥエックの考えを要約すれば、以下のようになる。人間の基本的資質(知能や気質など)は生まれつきのもので、生涯変わらないという心構えを「こちこちマインドセット」と呼ぶ。反対に、努力次第でかなり変わると信じている心構えを「しなやかなマインドセット」と呼ぶ。「こちこちマインドセット」をもった人は、知能の低さや、無能さは生涯変わらないマイナスのレッテルだと考えているので、自分を飾りたてて知能の高さや能力があることを他人に示そうとする。しかも、知能や能力は生まれつきのものだと信じているので真面目に努力をしない。それに対して「しなやかなマインドセット」をもっている人は、「できない」とか「知らない」ことは、努力次第で改善できると信じているので、自分を飾りたてる必要性を感じない。自分の足りないところは努力して改善しようとするので、どんどん成長する傾向がある。

相手によって態度を変える人は「こちこちマインドセット」をもった人である。自分の内面の基本資質は変わらないと信じているので、自分の外側を財産や地位で飾ろうとする。しかし真剣に努力をしないので自力では獲得できない。そのために財産や地位のある人の身近にいることを強調し、その後光をバックに自分を飾りたて、あわよくば財産や地位を盗み取ろうとする。