会社のナンバー2が変革型リーダーになれないのはなぜか

この疑問に答えるのが、アメリカの心理学者ロバート・ケーガンらが提唱した「行動変容免疫」というコンセプトである(注1)。「人間が社会で立派にやっていくために身につけた考え方がある。これは自分を守る働きをしており、免疫とよく似ている。身体的な免疫は、異物が体内に入ってくるとアレルギー反応を引き起こすのと同様に、新たな考え方や行動を身につけようとすると、心理的な免疫が拒絶反応を引き起こす。人間が行動を変容するためには、自分がどんな行動変容免疫をもっているかを知り、その免疫機能を弱める必要がある」というものだ。

たとえば、長年会社のナンバー2としてCEOを支えてきた人が、新しい考え方や行動をとらなければならないのに、それに対して拒絶反応を起こすことがままある。自分がナンバー2で長年成功してきたのは、トップの意向にそって成果をあげてきたことが要因の一つであることは間違いない。社会の激しい競争に勝ち残ってきたのも、ナンバー2がこの免疫をもっていたからである。

しかし今、会社を危機から救うためには変化対応型リーダーに変容する必要があり、そのためにはCEOの顔色ばかりうかがうことをやめて、自分自身が情熱をこめて仕事を進めていかなければならないと頭の中ではわかっている。ところが自分が熟知している手法はまったく通用しないし、失敗したら責任が伴う。これまで自分を守ってきた行動変容免疫の働きを抑えれば、自分のキャリアへのリスクが増えると不安に思うのも自然である。そのために、気がつかないまま行動変容はストップさせられてしまう(注2)

「松下むめの」的な生き方をして、すばらしい人間に成長しようとしたときに、どのような行動変容免疫が働くかを考えてみよう。

●人間の基本的な資質は努力することによって変えることができる
→どんなに努力しても全員がウサイン・ボルトのように速く走れるようになれるわけではない。自分の限界内で最大の努力をしたほうが効率がいい。

●財産や地位など世俗的な基準で、自分も他人も評価しない
→出世できないと職場ではつらい思いをする。お金がないと子どもに十分な教育を受けさせられない。財産や地位だけで他人を評価することはおかしいが、まったく無視することもできない。

●誰に対しても親切に誠実に接する
→誰に対しても親切にしていて、もし裏切られたら? 相手を冷静に観察し、人を見る目を養うべきだ。

●出会った人からよいところを学び取る
→そのためには相手をじっくり観察する必要があるが、何しろ忙しい。日々のやるべきことを優先しないと、キャリアが危うくなる。

行動変容免疫はそれなりの正当性をもっているだけに、これまでの生き方や考え方を変えることは容易ではない。変えようとすれば、自分のキャリアを守ってきた免疫機能を下げなければならず、そうとう不安な心理状態に陥る。筆者が手がけるコーチングでも、行動変容免疫の機能を下げてもらうときに、非常に難しい局面を迎える。ここを乗り切るための認知行動療法的な手法はいくつかあるのだが、煎じ詰めると、最低必要な心理特性は「狂気に近い勇気」だと筆者は考えている。とても難しいことだが、無茶な勇気をもって踏み出さなければ、その先の成功をつかむことができないのも事実なのだ。

注1)Robert Kegan & Lisa Laskow Lahey“Immunity to Change”Harvard Business
注2)前掲書P57の表をもとにアレンジして解説

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