高支持率の政権を待ち受ける“高転び”

永田町には、昔から「高転び」という言葉がある。

戦国時代、毛利家の家臣だった安国寺恵瓊あんこくじえけいが、当時権勢の絶頂期にあった織田信長について「信長の全盛は3年から5年で終わる。やがて公家になるかもしれないが、その後には高転びに転んでしまうだろう」と予言したことに由来すると言われている。

確かに、権力の階段を駆け上がった政治家が、思わぬことで足を掬われる。あるいは得意の絶頂のときに、突然、権力の座から転げ落ちるという事はしばしば起きる。

1997年、当時の橋本龍太郎首相は、初めての小選挙区選挙に勝利した余勢を駆って「橋本改革」に邁進しようとした矢先に、内閣改造人事でロッキード事件で有罪判決を受けた議員を起用したことで支持率が急落した。「龍さま」と呼ばれるほどの人気ぶりだった橋本氏もその後は支持率が低迷し、翌年の参院選で惨敗して退陣した。

また、2006年、小泉純一郎政権の後を継いで戦後最年少で首相に就任し、高い支持率を誇った安倍晋三首相(第1次)も、「お友達内閣」と揶揄された閣僚の不祥事などが続いて、翌年の参院選で思わぬ大敗を喫して退陣した。

いずれも永田町の「高転び」の例として筆者の記憶に残っている。驕りなのか、油断なのか、いずれにしても調子が良い時ほど、高転びに転ぶリスクが潜んでいるのが永田町なのだ。

ロケットスタートに成功して高支持率が続く高市早苗政権だが、「高転び」のリスクはないのだろうか。

各党へあいさつに向かう高市早苗首相
写真=時事通信フォト
衆院本会議で2025年度補正予算案が可決され、各党へあいさつに向かう高市早苗首相(中央)=11日、国会内

「自民党らしくない政治」への期待感

就任から1カ月半が過ぎても、高市内閣は70%前後の高い支持率を維持している。

公明党の政権離脱、日本維新の会とのアクロバティックな連立合意と、難産の末に誕生した政権だが、高市首相の大胆で分かりやすい発言と行動力によって、アメリカのトランプ大統領や中国の習近平国家主席との首脳会談を相次いでこなし、新しい外交スタイルを打ち出した。

憲政史上初の女性首相、分かりやすい発言、行動力、そうした「自民党らしくない政治姿勢」が期待感につながり高支持率に結びついたことは間違いない。

しかし、その持ち味の歯切れの良い分かりやすい発言が早くも波紋を広げている。

首相として臨んだ初めての予算委員会では、立憲民主党の岡田克也氏の質問に「(台湾有事が)戦艦を使って武力行使を伴うものであれば『存立危機事態』になり得る」と答弁した。台湾有事は日本有事つまり日本も自衛隊を出動させることがあり得るという意味だ。 

これに中国が激しく反応した。どのような状況にせよ中国の一部である台湾をめぐって日本が武力行使を示唆したというのが怒りの理由だ。その後中国は、経済はじめ人的、文化的交流までも制限して日本への圧力を強めている。

高市首相自身は「具体的なケースを挙げたのは反省点。今後は控える」と事実上修正したが、撤回は拒否した。

また党首討論では、「言いたくはなかったが、岡田氏が繰り返し聞くので予算委を止められないように誠実に答弁した」と岡田氏に責任転嫁するような言い方だが、いずれにしても不用意な発言だったことは認めている。しかし中国側は更に批判をエスカレートさせている。