対中強硬論で沸き立つネット世論

ところが、大阪総領事の「汚い首を斬ってやる」という極めて不穏当な投稿や、訪中した外務省幹部に対し中国側の外交官がポケットに両手を突っ込んだ尊大な態度で応対したことなど、中国側の強圧的で傲慢な対応が日本の世論の反発を招く事態になった。

むしろネット上を中心に、「高市首相は当然のことを言っただけで悪いのは威圧的な中国の方だ」「同じ質問をくりかえして高市答弁を引き出した立憲民主党の岡田克也議員の責任だ」といった論調があふれている。

立憲の議員たちのもとには、「発言を引き出した岡田氏に責任がある」「中国の手先のような岡田質問は許せない」などの批判のメールが殺到している。なかには立憲支持者からの厳しい声も寄せられているという。

ある立憲の議員は「岡田氏は必要な質問をしただけで、失言したのは高市首相の責任だ」といくら説明しても全く聞く耳を持ってくれない。なかには『岡田議員は何度も中国に行っている。中国のスパイだから中国が喜ぶ質問をしたのだろう。ネット上ではみんなそう言っている』という支持者までいた」と頭を抱えていた。

SNSなどで真偽が定かでない情報が拡散することが問題になっているが、日中問題でも根拠が不明確で首をかしげたくなるような情報がネット空間を席巻している。

そういえば、高市応援団の大御所、櫻井よしこ氏も、民放テレビに出演した際、中国の主張がいかに的外れかという根拠について「ネットのみなさんがそう言っている」と発言していた。いまや学識経験者や専門家の発言より、「知らない人が呟いている」ネット上の言説の方が信頼される世の中なのだろうか。

習近平氏と握手を交わす高市首相
習近平氏と握手を交わす高市首相(写真=首相官邸ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

習近平の怒りが支持率を押し上げる皮肉

それはともかく、中国側の威圧的な態度はエスカレートする一方だ。6日には公海上で中国海軍空母にスクランブルをかけた自衛隊機が、中国軍機にレーダー照射を受ける事案まで発生した。中国側は威嚇の意図は否定しているが、緊張状態のなかでこうした事案が起きること自体、偶発的な衝突に発展しかねず危険極まりない。

なぜ中国はここまで態度を硬化させるのだろうか。ある政府関係者はこう指摘した。

「習近平は、高市首相が歴史認識や台湾問題では中国に厳しい姿勢だと警戒して、実は首脳会談にも消極的でしたが、日中関係を重視する指導部内の側近から言われてしぶしぶ首脳会談に応じたんです。ところが高市首相が、会談の直後にAPECの台湾代表との2ショット写真をSNSにアップしたことで神経を逆なでされ、そして『台湾有事は日本の有事』という発言が出た。実は同じことを安倍元首相や麻生太郎元首相も言っていたのですが、どちらも首相を辞めた後の発言です。しかし高市さんは現職首相の発言であり、これは中国としては絶対に認められない。習近平のメンツにも関わるので、周辺も強硬姿勢を取らざるを得なくなったんです」

しかしその尊大で強引な中国の姿勢が、むしろ日本人の素朴な反中意識を刺激し、それが高市支持を押し上げるという皮肉な状況になっている。