トンデモ校則は守るべきなのか。政治学者の岡田憲治さんは「校則をめぐる話で大事なのは『どういう校則がいいか?』という問題だけではなく、『そもそも、そんな校則を、どんな価値観で選んで、誰がどういう話し合いと理由づけをして決めたのか、そして、どうやってそれを受け入れさせたのか』という、校則が存在する『前』と、存在『し続けている』部分だ」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、岡田憲治『教室を生きのびる政治学』(晶文社)の一部を再編集したものです。 

日本の学校の教室のイメージ
写真=iStock.com/mapo
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なぜ女子だけ靴下の色が指定されるのか?

ちょっと前に、僕の大学の附属高校の生徒が、卒業後の進路を決めるための「附属校フェス」に来てくれて、僕は彼・彼女らを相手に大学の模擬授業をやった。教室には高校生だけじゃなくて引率の先生がついてくるのだが、これまでの経験から、ふだんから「言うことを聞かせている」人が同じ空間にいるだけで、対話形式の僕の授業では生徒たちは何かよそゆきの立ち振る舞いとなりがちで、あまり本音を言ってくれない。

入学前の高校生の考えや感覚を知るのは貴重なことなので、できればあまりあちこち気を回してほしくないから、引率の先生に事情を話して「すみませんが授業中は席外してくれますか?」とお願いした。そして「飲み物とか自由に飲んでね」と緊張を解いてやった。のびのびしてほしかったのだ。

目の前にいちおう大学教授がいて、でっかい図体でこっち向いているから、やっぱり最初はみんなとまどっている。「『政治』って言われて、脳内に最初に浮かぶイメージって何?」と僕が聞くと、「……内閣総理大臣とかぁ」なんて、まったくもって立派なことを言う。

でも、そんなの君たちには全然リアルじゃないってことはもうお見通しだから、「そういう立派なこと言わなくていいからさ。立派なことばっかり言って、そんなにわかってないのにわかっていることにする要領ばっかり覚えると、そのうち役所の文書を平気で改ざんするような、まったくもって立派じゃない秀才になるから要注意だぜ」って言うと、みんな笑い出して雰囲気も良くなって、けっこう率直に話すようになる。

「君たちの生活の気配があるところに合わせてちょっと聞いてみるけどさ、一週間の学校生活で、『マジこれないわぁ』ってモヤモヤしてる校則ってあったら教えてくれる? 引率の先生には絶対に言わないからさ」

すると、ひとりの賢そうな女子君が話してくれた。

「あのぉ、制服の話なんですけど、男子は靴下自由なのに女子だけ購買部で売ってる学校指定の黒いやつじゃなきゃだめなんですよぉ。それっておかしくないですか?」
「ちなみに、その黒い靴下は、ダサいわけね? 女子的には」
「はい!(きっぱり)」