東京では中学受験の本番を迎えている。中学受験をするということは、遊びたい盛りに勉強に時間を割き、多額の費用をかけることを意味する。私立中学には、それに見合った教育効果があるのか。『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)が話題の拓殖大学教授、佐藤一磨さんは「中学受験を通じて優秀な子どもたちが私立校に集まっているだけであり、その教育効果が過大に見積もられていることも考えうる。私立中高一貫校に入学することで、本当に学力が向上し、より上位の大学に進学できるのか、という点を検証した研究を紹介したい」という――。
増加する中学受験者数
近年、首都圏を中心に私立中学校を受験する子どもの数が増えています。首都圏模試センターの調査によれば、2015年以降、中学受験をする子どもは増え続けており、2023年の春には約5万2600人が中学受験しました(*1)。
このように中学受験者数が増加する背景には、いくつかの理由が考えられます。
その一つが私立校の充実した教育内容です。
私立校では公立校よりも自由な教育カリキュラムを組むことができ、各学校が特色のある独自の教育プログラムを用意しています。ICT教育に力を入れる学校や、国際教育に力を入れる学校も増え、海外の大学進学を視野に入れるところも出てきました。これらの教育内容に惹かれ、中学受験するケースが増えています。
コロナ禍を経て受験熱はさらに高まった
また、私立校の教育内容に注目が集まるようになった背景には、コロナの影響もあります。私立校ではコロナ禍の際にいち早くオンライン授業を開始し、なかなか導入の進まない公立校との差を明確にしました。このような公立校と私立校の教育環境の差が中学受験の人気に拍車をかけていると考えられます。
中学受験が増加する二つ目の理由は、日本経済に対する長期的な不安です。
日本はバブル崩壊後の約30年にわたって低経済成長に直面しました。そして、今は少子高齢化といった構造的な課題に直面しており、今後の経済成長や社会保障制度の維持に不安が持たれています。この状況下において、「厳しい環境下でも生き抜ける力を養ってほしい」と願うのが親心です。この結果として、より良い教育への需要が高まり、中学受験する家庭が増えていると予想されます。